不動産経済 連載 シニアシフトの衝撃 第1回

シニアシフトの衝撃_表紙大人用紙おむつ市場が、赤ちゃん用市場を逆転

 

私たちの生活の中で、これまで長い間当たり前だと思われていた多くの「常識」が覆りつつある。たとえば、皆さんは「紙おむつは赤ちゃん用」だと思っていないだろうか?赤ちゃん用の紙おむつ市場は、2011年でほぼ1400億円。ところが、2012年中に大人用の紙おむつ市場が1500億円に達し、ついに赤ちゃん用を逆転した。

 

大人用はここ数年、市場全体が年率5%程度で成長を続けている。国内紙おむつ最大手のユニ・チャームでは、大人用の売上げは2ケタ増が続いており、2013年3月期には大人用紙おむつも売上げ600億円台を突破する見通しだ。

 

リカちゃん人形に「おばあちゃん」が登場

 

「リカちゃん人形」といえば、子供向けの着せ替え人形の代名詞としてご存じの方も多いだろう。2012年4月、このリカちゃんファミリーに「おばあちゃん」が登場した。おばあちゃん、香山洋子はカフェ併設の花屋さんのオーナーで年齢は56歳。

 

「おばあちゃん」の年齢を56歳に設定したのは、リカちゃんを発売した1967年当時、メインターゲットだった11歳の女の子が2012年に56歳になるためだ。

 

共働き世帯の増加で母方の祖母が孫の世話をするケースが増えており、発売元のタカラトミーには、リカちゃんシリーズの購入者から「孫と遊ぶ時に自分(つまり、おばあちゃん)役の人形があるといい」などとの声が寄せられていたという。

 

ゲームセンターはシニアの遊び場に、平日昼間のカラオケ客の6割がシニア

 

「ゲームセンターは若者の行くところ」──こんな常識も覆りつつある。ゲームソフトメーカー大手のカプコンは、2012年4月に20店のアミューズメント施設「プラサカプコン」でシニア向けの「ゲームセンター無料体験ツアー」を初めて開催し、延べ330人を集めた。一部店舗では50歳以上の会員向けに現金と引き換えに渡すメダルの量を2割増やすサービスを始めたところ、6月時点で1200人を超える会員が集まった。

 

カラオケ店も、もはや若者の場所ではなくなっている。それどころか、平日昼間はむしろシニアが主要顧客になりつつある。業界最大手のコシダカでは、平日昼間は来店客の多くが60歳以上のシニアで、店舗によってはシニア客の割合が6割を超えるところもあるという。

 

皆さんには、ここまでの話で従来常識だと思っていたことがいかに覆りつつあるか、おわかりいただけただろうか? これらの劇的な変化は、すべて人口の年齢構成が若者中心から高齢者中心へシフトする「シニアシフト」に起因するものだ。

 

実は、これまで挙げた例は氷山の一角にすぎない。シニアシフトの流れは、あらゆる産業に加速度的に広がりつつあるからだ。

2つのシニアシフト

 

「シニアシフト」には2種類ある。1つは、「人口動態のシニアシフト」。これは、人口の年齢構成が若者中心から高齢者中心へシフトすることだ(図表1、2)。もう1つのシニアシフトは、「企業活動のシニアシフト」。これは、企業がターゲット顧客の年齢構成を若者中心から高齢者中心へシフトすることだ。

 

2012年に目立つのは、実はこの「企業活動のシニアシフト」だ。私が知る限り、いま、この「企業活動のシニアシフト」が最も先鋭化している国は、日本である。

 

これは裏を返せば、これまで「人口動態のシニアシフト」が、時間の経過とともに粛々と進行していたにもかかわらず、「企業活動のシニアシフト」は、一部の企業と業種を除いて取り組みが遅れ気味だったからだ。それが、ようやく本気モードになってきたのだ。

 

2007年と明らかに異なるシニアシフトの特徴

 

なぜ、いま、さまざまな産業で「企業活動のシニアシフト」が起きているのか。実は、2012年は、団塊世代の最年長者である1947年生まれが65歳、つまり定年に達する年なのだ。

 

人数の多い団塊世代が徐々に定年を迎え、今度こそ大量の離職者を対象とした新たな事業機会が生まれるとの期待感から一種のブームになっている。このことが理由の1つであるのは確かだ。しかし、これだけがいま起こっている産業界全体のシニアシフトの大きな流れの理由ではない。

 

実は、2007年にも「2007年問題」と呼ばれ、似たようなブームが起きた。ところが、今回の動きは5年前の一過性のブームとは大きく様相が異なっている。それは、①企業におけるシニアビジネスへの取り組みが本気になってきたこと、②取り組む企業の業界が多岐にわたっていることだ。

 

つまり、今回の動きは単なる団塊世代退職市場ブームという次元ではない。今後、長期にわたって継続的に起こる社会構造の変化への対応としての取り組みが目立つ。実際私は、多くの企業経営者・実務担当者とのビジネス現場でのやりとりを通じて、このことを肌身で実感している。

 

不動産業においても、このシニアシフトの流れをいかに自社のビジネスに結びつけるが大きな経営課題となっている。

 

 

シニアシフトの衝撃