先見経済7月15日号 連載 親と自分の老い支度 第6回

senken1107-cover認知症になっても諦める必要はない

あなたの親が認知症を発症したと思われたとき、あるいは何らかの理由で身体が不自由になりかけてきたときにやるべきこととは、

 

①認知症かどうかチェックする

②要介護認定を受けてもらう

③介護施設を探す

④財産管理等委任契約をスタートする

⑤亡くなったときの連絡先を確認する

の5つです。今回は①について説明します。

senken1107-1認知症を引き起こす病気は、およそ70種類あると言われています。そのうち日本ではアルツハイマー病が50%、脳血管性認知症が30%、レビー小体病が10%、その他10%という報告があります。

 

認知症になると治療法がなく、諦めるしかない、と思われている人も多いようですが、最近の状況は変わっています。「慢性硬膜下血腫」や「特発性正常圧水頭症」のように治療が可能なものもあります。

 

また、最も多いアルツハイマー病に対しては、塩酸ドネペジル(商品名「アリセプト」)という薬を使えば、初期の進行を10ヵ月程度抑えることができます。さらに、3番目に多いレビー小体病に対しては、抑肝散という漢方薬が、レビー小体病特有の幻視に対して効果があることが分かっています。

 

その一方、薬を使わずに、徘徊、暴力、幻覚など認知症特有の周辺症状を緩やかにする「非薬物療法」にもいろいろなものが登場しています。スウェーデンの医療現場で使われているのが「タクティールケア」、アメリカで開発された心理療法「回想法」「美術療法」「音楽療法」などです。

 

なかでも、音読・手書き・簡単な計算とスタッフとのコミュニケーションによる「学習療法」は、全国1500以上の介護施設や自治体の健康教室に導入され、認知症の改善や脳機能の維持・向上に大きな効果を上げています。

 

学習療法は、私が所属している東北大学加齢医学研究所の川島降太教授、抹式会社日本公文教育研究会、高齢者施設を運営する社会福祉法人道海永寿会により開発されたもので、最近は海外からも高い関心が寄せられています。

 

senken1107-2親の認知症に早く気づくためのチェックポイント

 

このように、認知症は、「治療法がなく、諦めるしかない」病気ではありません。ただし、他の病気と同じで、症状を悪化させないためには早期発見が重要です。

 

2月15日号の本連載第1回で説明した通り、認知症の「出現率」は、70歳から年齢とともに上がっていきます。あなたの親が70歳を過ぎたら、認知症の兆候がないか、定期的に確認することが重要です。

 

次のチェック項目で、あなたの親の状態を確認してください。1つでも思い当たることがあれば、認知症の専門医の診断を受けさせましょう。

 

①もの忘れ、置き忘れの頻度が増える

②小さな買い物でも、小銭ではなくお札で払う

③予定を頻繁に忘れる

④知っているはずの道で迷う

⑤5分前に聞いたことを、また聞く

⑥鍋をよく焦がすようになった

⑦今日の日付が言えない

⑧自分の年齢が言えない

⑨時計の絵や立方体の絵がうまく描けない

⑩旅先でお風呂に入れなくなる

 

認知症の専門医をどうやって探すか?

 

認知症の専門医は、病院の精神科、神経内科、老年科、あるいは「もの忘れ外来」などにいます。とはいえ、すべての精神科や神経内科の医師が認知症に詳しいわけではありません。

 

また高齢者は、いきなり病院に連れていこうとすると抵抗感が強いので、まずは、近所の診療所に相談できれば、そのほうが良いでしょう。適切な診療所を探すには、最寄りの地域包括支援センター、保健所、保健センター、市区町村の社会福祉事務所などに問い合わせるのが良いでしょう。

 

親に受診を促すコツは何か?

 

認知症の診断を受けるために病院に親を連れていくときに、最も苦労するのは、本人が受診を嫌がり、どうやって受診させたら良いか分からなくなることです。

 

この対策は、本人の性格や家族の状況などによってさまざまですが、1つの方法として、「健康診断を受けておきましょう。何でもなければ安心なので」と言って、連れていくやリ方です。この場合、病院には「受診を嫌がっているので、健康診断だと言って連れていきます」と事前に連絡して、対応してもらえば、スムーズにいきます。

また、病院での待ち時間が長いと、待つのが嫌で帰りたがる可能性が高いので、必ず予約を入れるようにしましょう。さらに、受診日は本人には直前に告げるのが良いでしょう。あまり早くから受診することを伝えると、当日になって「やっぱり行かない」と言い出すことが多いからです。

本人がどうしても嫌がるときは、忙しいあなたには辛いことですが、無理強いをせず、次の機会を待ちましょう。決して、叱ったり、責めたりしないことです。認知症になると、叱られたり、落ち度をなじられたりする機会がどうしても増えがちですが、これが一番逆効果です。

 

親が認知症だと診断されたらどうするか?

 

受診から確定診断まで大抵1~2ヵ月かかります。治療が必要な場合は、それから治療に入るので、あなたの親に認知症の疑いを感じたなら、できるだけ早く受診させてください。

確定診断の結果、親が認知症だと分かると、誰でもショックを受けます。しかし、冒頭から申し上げているように、認知症になったからといって、諦める必要はまったくありません。やり方次第で症状が改善して健康な状態に戻る例もたくさんあるからです。そのことを認識したうえで、次の要領で、あなたの親を支えていく態勢を整えましょう。

①医師や行政、介護サービスの窓口になる人を決定します。あなたが親と同居しているな

ら、あなたがなるのが一番良いでしょう。

②あなたが親と別居している場合は、どこで誰が介護するのかを決めないといけません。

認知症は、住んでいる環境が変わると症状が進むことも多いので、本人の住み慣れた自

宅での介護が一番良いと言われています。

 

③一方、本人の配偶者(あなたの両親のいずれか)が先に亡くなったりすると、ショック

で引きこもりになったり、自宅で一人暮らしになることで、周りの人とのコミュニケー

ションが減り、症状が悪化することもよく見られます。

④こうした背景や実際に介護する家族の負担を考慮して、家族と本人にとってベストな態

勢を考えてみてください。

⑤介護保険制度の活用、市区町村の公的補助制度、年金、保険など経済的な面も確認して

ください。

 

先見経済を発行する清話会のご好意により記事全文を掲載しています。

参考文献:親が70歳を過ぎたら読む本