2026年9月29日 マレーシアISWC2026 基調講演報告
参加料 約24,000円にも関わらず、600人収容の会場はほぼ満席状態
マレーシアの首都、クアラルンプールのシャングリラ・ホテルで開催のThe International Social Wellbeing Conference(ISWC) 2026で、基調講演とパネルディスカッションに参加しました。
主催者はマレーシア財務省の政府機関KWSP(Kumpulan Wang Simpanan Pekerja)。英語ではEPF(Employees Provident Fund)、日本語で「従業員積立基金」と呼ばれる公的な強制退職積立制度です。
財務大臣も挨拶だけでなく、終日参加するほど重要なイベントのようで、参加料600リンギット(日本円で約24,000円)という高額にも関わらず、600人収容の会場はほぼ満席状態でした。これ以外にオンラインでも1000人の聴講者を受け付けていました。
私は午後のセッション「Global Perspectives and Responses to the Demographic Shift」の基調講演として、「Living Well Longer: Lessons from Japan on Healthy Ageing」というタイトルで、30分英語でお話ししました。
マレーシアの公用語はマレー語ですが、英語も第二公用語と言ってよいほど、かなり通用します。アジアで公用語が英語の国はシンガポールとフィリピンですが、私の印象ではマレーシアもこれらの国と同様に英語が通用します。
周回遅れのランナーは真のトップランナーかもしれない

海外での講演は通常30分で、長くても40分です。したがって、ターゲット聴衆に合わせた内容の絞り込みが重要になります。
ただし、海外講演の場合、事前にどのような聴衆が参加するのかがわからないことが多いため、こちら側での仮説が必要になります。
講演の冒頭で、マレーシアの現在の高齢化率8%が、日本の1975年、つまり50年前と同じであることをグラフで示し、「高齢化率の観点で日本は50年進んでいる」ことを伝えました。
こう言うと偉そうに聞こえるかもしれませんが、すぐその後に「マレーシアは日本の体験に学べば、(日本よりも)より良い高齢社会をデザインできる」、つまり「周回遅れのランナーは真のトップランナーかもしれない」と付け加えています。
これはお世辞ではなく、マレーシアの今後の可能性を述べたものです。数ある選択肢のなかで、何を、どの順番で実行していくかは、マレーシアのリーダーと国民に委ねられます。現在はその選択肢を集めている段階で、今回のイベントもその一端だと思われます。
「超高齢社会とは女性社会だ」と説明 会場から大歓声が上がる
次に、社会の高齢化が進むと何が起こるのかをイメージしてもらうために、高齢化に伴う日本の課題を5つ挙げ、順番に説明しました。
- 独居世帯の増加(特に女性)
- 要介護人口の増加
- 認知症人口の増加
- 介護従事者の不足
- 年金だけでは生活が苦しい人の増加
1では、人口動態が1950から2025年まででどう変化したのか、男女の数値を棒グラフで重ねたものをグラフで示しました。
特に団塊世代より上の年齢層では、女性が圧倒的に多くなることを示し、「超高齢社会とは女性社会だ」と説明すると、会場から大きな歓声が上がりました。
この反応は、ある程度想定していましたが、聴衆の半分以上を占める女性からの反響がかなり大きく、この点が想定外でした。
以降、5つの課題を順に説明し、まとめとして経済的(お金)な観点からも、いま元気で自立して生活している人が、身体的健康をできるだけ長く維持するかが最重要課題だとお話ししました。
次に、どうやって身体的健康をできるだけ長く維持するかを説明しました。その際、要介護になる原因を男女別のグラフを見せて説明しました。
このグラフを非常に多くの人がスマホで写真に撮っていました。こうしたデータはマレーシアではまだ一般的ではないのかもしれません。
女性専用フィットネス・カーブスの話が多くの女性の心に響く
特に女性が男性に比べて骨折・転倒、運動器障害の割合が多いこと、加齢とともに下肢の筋肉が衰えること、対策として筋力トレーニングが有効なことをデータで説明しました。
そして、具体例として日本で普及したカーブスの話をしたところ、これが大変な反響でした。
成功理由の一つとして、No Men(男性がいない)と話した瞬間、会場じゅうに大歓声が上がりました。
さらに、No Make up(化粧がいらない)、No Mirror(鏡がない)と話せば話すほど歓声と笑い声で盛り上がり、補足説明が不要でした。
実は、カーブスはマレーシアにもクアラルンプール中心に11店舗ほどあるのですが、ほとんどの人は知らないようでした。
その後、要介護の原因のトップの一つである認知症対策の現状と今後の方向性をお話ししました。
打てば響き、ポジティブな反応が多い聴衆に対しては講師としても話しやすく、30分の講演はあっという間に終わり、終了時には大きな拍手をいただきました。
マレーシアの中高年女性の「不」を見つけた気がした
前述の「超高齢社会とは女性社会だ」の箇所と、カーブスで「No Men(男性がいない)」の箇所でそれぞれ大歓声が上がったことの背景に、マレーシアでのイスラム女性が置かれた社会環境があるように思われました。
マレーシアの民族構成割合は、マレー系(ブミプトラ)が約70%、中国系(華人系)が約23%、インド系が約7%です。人口全体の約63.5%がイスラム教徒(ムスリム)で、主にマレー系の住民です。
イスラム教の教えでは男女平等が基本ですが、実際にはイスラム女性に多くの制約があるために、社会的に優先、尊重されることを望んでいるのではないかと感じました。
ちょうどいま、NHKの朝ドラ「ブラッサム」で明治時代の封建的な父親と厳しく制約される女性の姿が描かれていますが、マレーシアにおけるイスラム教徒の女性の立場も、これと似たところがあるのかもしれないと感じました。
シニアビジネスの基本は「不の解消」だと、私は20年以上前から言い続けていますが、マレーシアの中高年女性の「不」を見つけたような気がしました。
唯一の日本人講演者として参加する私の役割は、日本の取り組みの優れた点と課題を整理して伝え、マレーシアの今後を検討する視座をお伝えすることだと思っています。
