クラブツーリズム 旅と人生を楽しむ スマート・エイジング術 第21回
コロナ禍で体重とテレビ視聴時間が増えたクラブツーリズム会員
シニア向け旅行最大手のクラブツーリズムが今年3月に会員の皆さん向けに実施したアンケートに「コロナ禍の2年間を振り返って、どんな変化がありましたか」という設問がありました。その回答の上位は次の通りです。
1. 外出機会が減った
2. 太った・体重が増えた
3. テレビやYouTubeを見る時間が増えた
1の理由として最も多いのは「旅行に行けなくなったため」です。クラブツーリズムの会員さんなので当然ですね。また、旅行以外に「外食機会」や「グループでの食事会」が減ったという意見も多く見られました。
さらに、外出を控えた理由として「持病(基礎疾患)がある」を挙げている場合もありました。基礎疾患があると重症化リスクが高くなるという認識が広まっているためと思われます。
2「太った・体重が増えた」の理由として多かったのは「ビールやワインなど家での酒量が増えた」「お菓子など甘いものを食べる機会が増えた」です。
例えばビール会社は業務用需要が減ったため、家飲み需要を喚起するためテレビコマーシャルに注力しました。3にあるようにテレビを見る時間が増えているため、影響を受けやすくなったとも言えます。
また、旅行機会が減ったため、旅行で出費する代わりに少し高価なデザートなどを購入したという人も多いようです。
実はこれらの回答上位3つは、既に公表されている他の調査結果(連載第11回で紹介)と同様で、目新しい結果ではありません。
筆者らが提唱しているスマート・エイジング実現のためには「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4つが必要条件。ところが、新型コロナウイルス感染症の流行で生活スタイルが変わり、これらの条件を満足しにくい要因が増えてきた。特に巣ごもり生活の長期化でテレビやビデオ視聴時間が増えていることが気になる。テレビ視聴時に大脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)に「抑制現象」が生じることが分かっており毎日長時間続くと脳機能の低下につながる。
「外出がおっくうになった」という声が増加
ところが、今回のアンケート結果で気になった点があります。
それは自由コメント欄に「外出がおっくうになった」「出かけるのが面倒に感じる」「何をやるにも面倒くさいが先に立つようになった」といったコメントが非常に多く見られた点です。
こうしたコメントは、「意欲」や「やる気」の低下を表しています。原因として第一に考えられるのは、「認知機能が低下」したことです。
運動不足や会話不足は大脳の前頭葉にある意欲の中枢の機能低下を促します。また、連載第11回で説明の通り、テレビやYouTubeを見る時間が増えると大脳の前頭前野に抑制がかかり、習慣化すると認知機能が低下します。
原因として第二に考えられるのは、外出しないことが「習慣行動化」したためです。
連載第19回で説明の通り、目的行動の繰り返しによって、その価値は私たちの脳に「学習」され「記憶」されていきます。コロナ禍での「ステイホーム」という目的行動が繰り返された結果、外出しないことが「習慣行動」となり、無意識的に選択するようになったのです。
健康管理を毎日続ける秘訣は、健康管理という「目的行動」を「習慣行動」に変えることです。目的行動の繰り返しによって、その価値は私たちの脳に「学習」され「記憶」されていきます。価値が記憶されると、やがてその行動を無意識的に選択するようになります(習慣行動化)。習慣行動化を促すには、自分にとっての①価値・恩恵が最大化され、②手間・コスト・心的エネルギーが最小化されることです。
「外出がおっくう・面倒」を切り替えるには
では、こうした「外出がおっくう・面倒」を切り替えるにはどうすればよいのでしょうか。
対策その1は、「意欲」や「やる気」を高める行動をとることです。具体的には次がおすすめです。
1) 目標設定型の生活にする
2) テレビ、YouTubeの視聴時間を減らす
3) 脳を使う機会を増やす
4) 運動する
1)は連載第10回でお話しした脳の報酬系を活発にしてドーパミンの分泌を促す生活スタイルです。
脳内の報酬系(ほうしゅうけい)という神経ネットワークに「ドーパミン」という神経伝達物質が放出されると「元気」や「やる気」「わくわく感」を感じます。「目標設定型」の生活で意図的にドーパミン分泌を促せます。目標設定のコツは今のレベルより少し高めで具体的に。目標は「達成したら嬉しい、ワクワクする」ものが重要です。
2)および3)は連載第8回でお話しした脳のトレーニングを行うことです。
加齢にともない涙もろくなり、イライラするのは大脳の前頭前野の機能低下によって感情を抑制できなくなったため。この機能を改善するのが「脳のトレーニング(脳トレ)」。東北大学の川島隆太教授によれば脳トレには情報の「処理速度を向上する」ものと「処理容量を拡大する」ものがある。
4)は連載第4回でお話ししたサーキットトレーニングもよいですし、一日30分ウォーキングするのでも十分です。
中高年女性が30分のプログラムを一回行うだけで、認知力の一種である「抑制能力」(がまんする力)と「活力」(ポジティブな気分)が即時的に向上すること(即時効果)を初めて学術的に明らかにしています。重症化リスクの高いのは「高齢の人」ではなく「基礎疾患を持っている人」です。過剰な自粛で運動不足になって精神的ストレスを溜めるより、感染予防策をしっかり講じている場所で科学的に効果検証された運動を行うのが有用です。そうした運動により前向きな気持ちで基礎疾患を改善・予防できれば、感染症による重症化リスクも下げることができます。
対策その2は、外出することを「習慣行動化」することです。そのためには、最初は外出を「目的行動」として意識して行うことが必要です。
ここで注意したいのは、最初は決して無理しないことです。第19回でお話しした通り、目的行動を習慣行動化するにはコツがあるからです。
ある目的行動を行うかどうかの判断の際、私たちは、①その行動による価値・恩恵がどの程度あるのかと、②その行動を取るための手間やコスト、時間、心的エネルギーなどがどの程度必要かを天秤にかけ判断します。
したがって、①が大きく、②が小さいほど、その目的行動は実施されやすく、継続されやすくなります。
長らく行動自粛していたため、外出がおっくうに感じる人は、外出をするための心的エネルギーが大きくなっていると思われます。したがって、負担感のない範囲で少しずつ行動していくのがよいです。
これらを総合的に考慮すると、最も手軽で取り組みやすいのは、ツアー参加型の日帰り旅行でしょう。自分で交通手段の手配や行先の手配は不要、運転も不要。一人ではないので会話機会も自然に生まれます。
日帰り旅行を数回行って、外出機会に慣れてきたら、もっと長期間の旅行に行くのもよいでしょう。要は取り組みやすい方法から徐々に外出慣れをしていくことです。
クラブツーリズムの会員の皆さんはもともと旅行が好きな方なので、普通の方よりも「意欲」や「やる気」は高まりやすいと想像しています。
「スマート・エイジング」とは、2006年に東北大学からの依頼で私が提案し、私が所属する東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターの組織名にもなっている考え方です。加齢(エイジング、ageing)は、受精した瞬間からあの世に行くまで続き