2009年2月20日 スマートシニア・ビジネスレビュー Vol.125
不景気でモノが売れないと言われている。ところが、不景気でも売上を伸ばしている企業もある。ユニクロ、楽天、任天堂などがその例だ。
特に任天堂は第3四半期の営業利益が5,013億円と過去最高を達成している。DSとWiiが欧米でもよく売れているのが好業績の理由である。
先月訪れたアメリカでWiiが売れている
「意外な場所」に気がついた。
それはリタイアメント・コミュニティ
(アメリカ式の老人ホーム)である。
人気のソフトはWii Sportsのボーリングだ。
屋内運動場に大型の液晶テレビを7台横一列に並べ、
高齢の入居者が大勢集まって「大ボーリング大会」に
興じているのである。
これには正直驚いた。
なぜ、Wii Sportsボーリングが入居者に人気なのか。
第一に、高齢者には負担の大きい通常の重いボールを
使用せずに「ボーリング」を楽しめる点。
Wiiでは、全てのメニューで独自のリモコンを使用する。
このため、ボーリングにおいても重いボールを投げずに、
このリモコンを使用する。
ボールを使用しないのに、どこがボーリングなのかという
疑問を持たれる方は、ご自身で実際にやってみるとよい。
百聞は一見に如かずだ。
実際にやってみると、実に「ボーリング」らしいことが
よくわかる。ボールが転がる風景や音、ピンが倒れる様子や
音が、まるで実物のようにリアルなのである。
第二に、複数の人と一緒に同時に楽しめる点。
この意味において本物のボーリングと同じなのである。
テレビゲームというと一人でコンピュータの画面相手に
黙々と対戦するネクラのイメージが強い。
私もそうしたイメージを長い間持っていた。
だが、Wii Sportsをやってみて、そのイメージが変わった。
Wiiという仕組みを介して仲間と体を使った対戦を
楽しめるという価値を提供しているのである。
第三に、ある程度コツをつかめば高いスコアが出やすい点。
アメリカで見た入居者達のスコアは平均150から180。
なかには200を超えている人もいて驚いたものだ。
だが、これも実際にやってみればわかることだが、
ある程度コツをつかめば180程度のスコアは容易に出る。
ところが、実際のボーリングでこのスコアを出し続ける人は
本当のプロだけだ。
高齢者でもある程度練習すれば、
こうした「プロ気分を味わえる感覚」が、
うけている大きな理由なのだ。
Wii Sportsを見て、私は90年代前半に日本でも
ブームになった「バーチャル・リアリティ」を思い出した。
当時メディアが頻繁に取り上げたのは、
ヘッドセットをつけると三次元画像を見ることができ、
宇宙に行ったり、アフリカのジャングルに行ったり
する気分を味わえることだった。
私自身も何度かその設備を体験した。
だが、その体験で明らかになったのは、
そうしたバーチャル・リアリティには、
逆に何のリアリティも感じないことだ。
人がリアリティを感じるのは、
画像が精緻な三次元画像だからではない。
リアリティとは、架空のキャラクターではなく、
実在する友人・知人と交流することで感じるのだ。
これは、夢の中に実在する(あるいは実在した)知人が
登場すれば、たとえ夢でもリアリティを感じるのと似ている。
Wii Sportsボーリングが高齢者に人気な理由は、まとめると、
高齢者の参加の敷居を低くして、
複数の仲間と一緒に楽しめ、
本格的な気分を味わえることだ。
この構造は、手前味噌だが、私が日本で初めて紹介した
女性専用フィットネス「カーブス」とよく似ている。
女性の参加の敷居を低くして、
複数の仲間と一緒に楽しめ、
本格的に筋力アップができ、体重も減るからだ。
モノが売れないのを不景気のせいにするのは簡単である。
だが、不景気でも売上を伸ばしている企業はいくつもある。
そうした企業の共通点は、
他者の猿真似ではない独自の工夫を凝らしていること。
Wii Sportsを見て、
そのことを強く感じた。
参考情報
スマートシニア・ビジネスレビュー 2006年12月18日 Vol. 98
カーブス創業者が伝えてくれたもの