日本経済新聞夕刊 2014年8月21日 読み解き現代消費
日経夕刊2面の連載コラム「読み解き現代消費」に『ぜいたくするシニア やりたいこと「解禁」』を寄稿しました。
「読み解き現代消費」は、毎週水曜日、気になる消費トレンドについて、その背景などを読み解くコラムです。私も執筆者の一人に名を連ねており、一か月半に一度のペースで寄稿する予定です。以下に全文を掲載します。
なお、このシニアの消費行動がどのようにして起こるのかについて、詳しくお知りになりたい方は、拙著「成功するシニアビジネスの教科書」第6章 いかにしてシニアの消費心理を踏まえた商品提案をするか?――財布のひもが緩むカギは「解放段階」と「家族との絆」をご一読ください。
***********************************************************************
九州旅客鉄道(JR九州)が2013年10月に始めた豪華寝台列車「ななつ星in九州」の旅は、高級感ある内外装の車両に乗り、九州の名所を回るぜいたくなものだ。料金は第4期(14年8~11月出発分)の場合、3泊4日で1人当たり43万~125万円と高価だが、60代を中心に予約は埋まっている。
これだけの高額ツアーなので、参加者は富裕層ばかりかというと、実はそうでもない。筆者の知り合いで、第1期のツアーに千葉県から参加した65歳の女性は介護施設の職員だった。
下のグラフをみれば分かるように、一般に高齢者世帯の所得はそれほど高くない。なぜ、富裕層ではない一般の人が、こうした高額商品を購入するのだろうか。
米国の心理学者コーエンは、50代半ばから70代前半にかけての心理的発達の段階を「解放段階」と呼び、この段階には、今までと違うことをしたくなる傾向がみられるとしている。
例えば、会社を早期退職して沖縄に行き、ダイバーになる。ずっとパートでレジ打ちをしていた女性がダンスの先生になる、といった具合だ。
なぜ、60代前後に「解放段階」が訪れるのか。一つは、脳の潜在能力が発達し、新たな活動や役割に挑戦するエネルギーが湧くこと。もう一つは、退職や子育てからの卒業、親の介護の終了など、ライフステージが変わりがちであること。これらがきっかけで、この年代は心理面の変化が起きやすくなっている。
もう人生は長くないのだから、自分のやりたいことをやろうという気持ちが、新たな行動を後押しするわけだ。
先の女性は「夢の列車に、最初に乗れてうれしい」と話していた。富裕層でなくても、列車が大好きで「これを逃したら二度と乗れない」と思えば、へそくりをはたいてでも豪華ツアーに参加する。これがシニア層の消費の一つの断面だ。
第6章 いかにしてシニアの消費心理を踏まえた商品提案をするか?
――財布のひもが緩むカギは「解放段階」と「家族との絆」