スマートシニア・ビジネスレビュー 2016年2月24日 Vol.215
シニア向けカフェが失敗するのは「平場のラウンジ」だから
かつて拙著「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」で「退職者のための第三の場所」の例として、シカゴにあるマザー・カフェ・プラスを取り上げました。
以降、多くの企業が、このマザー・カフェ・プラスを真似して「○○カフェ」や「××サロン」を立ち上げてきましたが、ことごとく失敗しました。
その理由を拙著「シニアシフトの衝撃」に次のように書きました。
”その理由の1つは、カフェを平場のラウンジにしてしまうことにある。平場のラウンジがダメなのは、広いスペースを使う割に、収益源が少ないからだ。そもそも平場のラウンジは人が集いにくい。人は周りに囲いがないところにはなるべくいたくないからだ。電車の席に座る場合も、端の席から順番に埋まっていき、真ん中は最後に埋まる。これと同じだ。”
この文章は、私が実際に多くのシニア向け「○○カフェ」や「××サロン」を観察した経験を踏まえたものでした。ところが、最近脳科学の観点から、なぜ平場のラウンジに客が集まらないのか、その本当の理由がわかってきました。
平場のラウンジに客が集まらない脳科学的な理由
私の所属する東北大学加齢医学研究所は、脳科学・認知科学研究分野でトップクラスのところです。
先日、マウスを使ったある実験を観る機会がありました。それはマウスの大きさに比べてかなり大きく広い箱の中にマウスを入れた時にどのような挙動をするのかを追跡するものでした。
私はその実験結果を見てはっとしました。大きく広い箱の中に入れられたマウスは、落ち着かず、大きな箱の周辺部のみをぐるぐると回り続けたのです。
少し詳しく言うと、こうした環境の下では、恐怖や不快を感じる偏桃体と呼ばれる脳の一部位から興奮性の神経伝達物質(アドレナリンなど)が多量に分泌され、落ち着かなくなっているのです。
高齢者施設においても認知症の人は大部屋では落ち着かず、情緒不安定になる例をよく見かけますが、これも同じ理由です。
実社会での人の行動については、感覚的・経験的にわかっていても、なぜ、そのような行動が起きるのかが不明なことが多々あります。
脳科学や認知科学は、そうした複雑怪奇な人間行動の背景を理解する一助になります。最近はこうした研究分野のことを神経経済学(ニューロ・エコノミクス)と呼ぶこともあります。神経経済学は、近年関心が高まっている行動経済学の一分野とも言えます。
明日開催のスマート・エイジング・カレッジ東京の月例会では、まさに脳科学・認知科学から読み解くシニアビジネスの話がテーマになります。
こうした組み合わせは、極めて学際的であり、大学と民間企業が一緒に取り組むのにふさわしいテーマで、私も大変楽しみです。
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