スマートシニア・ビジネスレビュー 2002年9月5日 Vol. 20
大阪梅田の阪急百貨店に7月10日に開店した「リフレピット エネ」という店舗が話題になっています。
これは「リラクシング&ビューティー」をテーマにした5つのエステ、美容サロン、メークスタジオとカフェを集めたものです。
ここが話題になっている最大の理由は「女性専用」であることです。
男性は入り口前の渡り廊下で入店を断られます。近年女性専用列車が走ったり、アメリカやイギリスで女性専用のフィットネスクラブが大流行したりしていることもあり、「女性専用店舗」ということだけでも頻繁にテレビや雑誌に取り上げられています。
しかし、この店舗を開設した真の狙いは「女性専門」であることをPRすることではなく、むしろ別のところにあるようです。
それは、これからの百貨店の新たなスタイルへのチャレンジといえます。そして、そこには、若い女性だけでなく、シニア向けサービスにも応用のきく多くのヒントがあるように見えます。
「リフレピット エネ」には、次の5つが「サブ店舗」として集まっています。
1. アンスティテュ エステダム(エステサロン)
2. スティリスト by シュウウエムラ(パーソナル・メークアップ・スタジオ)
3. カシャ by オプシス(メイク&フォトスタジオ)
4. ル・タン(トータルセラピー)
5. フランシュール by ティースアート(歯を美しくするいろいろなサービス)
これらの店は、それぞれの業界でも有名な店ばかりであり、いつも美しくありたいと願う女性にとっての「ワンストップ・ショップ」となっています。
しかし、「リフレピット エネ」の百貨店の試みとしての第一の特長は、全て「モノ」ではなく、「コト(=サービス)」ばかりを集めた店舗だということです。
そして、第二の特長は、顧客への提供の仕方が従来の「婦人服」「紳士服」という「商品シーズ」での分類でなく、「いつも美しくありたい」「きれいになりたい」という「顧客ニーズ」での分類だということです。
これまで百貨店とは「百(=多くの)貨(=モノ)店」であり、多くのモノを売るところ(買うところ)だと当たり前のように思われていました。
「最近百貨店で買いたいものがないのよ」- これは先日ある百貨店のそばで聞いた50代の母親と20代の娘との会話での母親の言葉です。
現代のようなモノに溢れた時代には、モノの消費に飽きた人が間違いなく増えています。先の母親の言葉は、本当は「ほしい何か」があるのかもしれないが、百貨店にはない、といっているのです。しかし、その「ほしい何か」とは、いわゆる「モノ」であるとは限らないのです。
また、これまでの百貨店やスーパーにおける商品の展示の仕方はその商品を製造・販売している「メーカー」や「ブランド」の順であることがほとんどでした。
たとえば、紳士服売り場に行ってスーツ、シャツ、ネクタイ、靴などをトータルにコーディネートしたいと思っても、それぞれの売り場がブランド毎にばらばらにあり、デザイン、品質、価格を相互比較して納得した上で購入するということはほとんど不可能です。顧客本位といいながら実は仕入れの都合を優先した売り手本位である場合が未だに多いのが実情です。
このような現状において、「いつも美しくありたい」という顧客ニーズにこたえ、「モノの消費」の場ではなく「快適さの消費」の場を提供した阪急梅田の試みは先を読んだ動きといえましょう。
一方、既存の店舗をリニューアルするということは、それまであった店舗をどこかに移動しなければなりません。そのための当事者との交渉や移動した場合の周辺とのバランスなどを考慮すると、店舗のリニューアルというのはなかなか容易ではありません。
そこで、工夫されたのは、このリフレピットを既存店舗の中につくらず、渡り廊下を挟んで別棟に設置したことです。既存店舗内でのテリトリー争いを避け、別天地で実験をするというやり方は卓抜といえます。
さて、百貨店における「テストベッド」であるリフレピットを見て思うことは、このような考えを「若い女性向け」だけでなく「アクティブシニア」を対象にした店舗に応用できないかということです。
そのように思う最大の理由は、百貨店のシニア顧客に対する集客力が抜群だからです。特に三越や高島屋などの老舗の百貨店では、平日の開店前にシニアのおじさん、おばさんが行列をなして開店を待つ風景が頻繁に見られます。
モノの消費に飽きた熟練消費者であるシニアに、たとえば、彼らが「快適さを消費する」場をつくりだすことで、これまでとは異なる来店の求心力がつくれるのではないでしょうか。