スマートシニア・ビジネスレビュー 2003年2月7日 Vol. 25
肥満大国アメリカは、その裏返しとしてフィットネス大国でもあります。フィットネスクラブの市場規模は約1兆5千億円で、日本の5倍。会員数は3千3百万人で、日本のほぼ10倍。多くのクラブがひしめき、市場は飽和状態に見えていました。
しかし、ここ数年爆発的に店舗を増やし、現在、アントレプレナー誌の最速成長フランチャイズの第一位となっているフィットネスクラブがあります。その名前は「カーブス」。最近世界最大のフィットネス・フランチャイズとしてギネスブックにも登録されました。
アメリカには約1万8千店のフィットネスクラブが存在します。しかし、何とその28%にあたる5千店がカーブスなのです。さらに、今年の6月までにさらに千店のフランチャイズが開店するとのこと。つまり、4時間に1店の割合で新規フランチャイズが増えていく計算です。
しかも、驚くべきことに、顧客の平均年齢は50歳。なかには、100歳の人が通っている店もあります。従来型クラブの平均年齢が25歳なのと対照的に中高年が多いのです。
今年の1月に社名変更するまでの旧社名は「カーブズ・フォー・ウーマン」。
実は、カーブスは、女性専用フィットネスクラブなのです。
いったい、カーブスは、どのようにして中高年女性の心をつかんだのでしょうか?
実は、フィットネス大国アメリカでも、従来型のフィットネスクラブに背を向ける人は案外多いのです。特に女性には、減量に励む姿を男性に見られたくない、ジムの機械的な雰囲気が好きになれない、長時間拘束されたくない、会員料金が高いなどの理由から、既存クラブを避ける人は結構います。
カーブスは、このような従来型クラブを嫌う女性をターゲットにし、これまでとは全く異なる新しいサービス形態で、その心をつかんだのです。
また、フランチャイズ・オーナーが小資本で開業でき、損益分岐点が低く、すぐに資本回収が出来やすい仕組みを考案しました。これが独立志向の夫婦にうけ、急成長の大きな原動力になりました。
このサービスやビジネスモデルの詳細については、3月に発売の「月刊ビジネスデータ(日本実業出版社)」と「月刊レジャー産業資料(綜合ユニコム)」に、それぞれ異なるテーマで掲載予定なので、興味のある方はお読みいただくとして、ここでの本題は別にあります。
それは、「新市場創出の糸口は、飽和市場のすぐそばにある」ということです。カーブスは、このことを示しているよい例なのです。
最近、日本でも少しずつ増え始めているサービスに、シニア向けの話し相手をするというのがあります。日本ではダスキンとの提携で全国展開を始めたホーム・インステッド・シニア・ケアという会社が有名です。
この会社については、スマートシニア・ビジネスレビューVOL.3で詳細報告のとおり、もともとアントレプレナー誌のシニアケア部門の第一位にランクされていた会社です。この会社の設立のきっかけについて、創業者のホーガン氏は、次のように語っています。
「当時、私は家庭の部屋掃除をする会社の店員でした。自宅に伺い、掃除をしていると、お客様から"ちょっと、こちらに来ていろいろ話をしないか"とか"庭の草むしりもついでにお願いできないか"などと相談を受けることがしょっちゅうありました。私は店に戻り、お客様からいろいろと相談を受けるので、それをビジネスとして受けたらどうでしょうかと上司に提案しました。しかし、上司は、"そんなことはわれわれの仕事ではない"といって相手にしてくれませんでした。それなら、自分でやってやろうと思って、この会社を立ち上げたのです」
既存の商品やサービスに満足していない顧客は必ず存在するものです。不満をもつ顧客の声を聴いたとき、それをどう受け止めるのかが分かれ目になるのです。
顧客のクレーム、不満の声を、単なる顧客のわがままだと思うのか、それとも新しいビジネスチャンスだと思うのか。その解釈の仕方が新市場を見つけ出せるかどうかを分けてしまうのです。
かつて、セブンイレブンの鈴木社長が自社店舗に導入しているPOSシステムについて、次のように語っていました。
「POSを使うと確かに売れ筋はわかる。しかし、売れなかった商品が、なぜ、売れなかったのかがわからない。売れなかった商品にこそ、次のビジネスチャンスが隠れているはずだ」
業界No.1企業のトップの凄みを感じると同時に、新しい市場を見つけ出す人には、国境を越えて次の共通の視点があることを、このエピソードは教えてくれます。
「市場が飽和しているのではない。市場を見る目が飽和しているだけなのだ」