解脱7月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第7回
「シニア層は、他の年齢層よりお金持ちである」という俗説
2013年10月現在、65歳以上の高齢者人口は3189万8千人、高齢化率は25・1%を超えています。その高齢者が保有する資産は、総務省統計局による「家計調査」平成24年(2012年)によれば、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、70歳以上で2,101万円と最も多くなっています。
2番目が60~69歳で2,052万円、3番目が50~59歳で1,139万円、4番目が40~49歳で55万円と2桁下がります。39歳以下はマイナス、つまり貯蓄より負債の方が多いのです。
このようにシニア層は、他の年齢層に比べて平均的には資産持ちです。このために、「シニア層は、他の年齢層よりお金持ちである」という俗説がはびこってしまうのです。
ところが、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成24年(2012年)によれば、世帯主の年齢階級別の「年間所得」は、50~59歳で764.3万円と最も多くなっています。2番目が40~49歳で669万円、3番目が30~39歳で547.8万円、4番目が60~69歳で541万円、5番目が70歳以上で403.8万円となっています。
資産持ちの60歳代・70歳代は、所得では4番目と5番目なのです。この主な理由は、60歳代・70歳代は多くの世帯主が退職し、主たる収入源が年金だからです。
このように、シニアの資産構造の特徴は「ストック・リッチ、フロー・プア」です。この言い方は、実は和製英語で、英語ではassets rich, cash poor(アセット・リッチ、キャッシュ・プア)と言います。
一般に将来に対する明るい展望が見られないと思いがちなことから、シニアは3K不安(健康不安、経済不安、孤独不安)が強いのです。このために、いざ高額出費が必要という時のために備えてお金を蓄える傾向が強い。そして、普段の生活においては倹約志向が強く、無駄なものにはあまり出費をしない消費スタイルの人が多いのです。
したがって、「シニア層は、他の年齢層よりお金持ちである」というのは正しくありません。「シニア層は、他の年齢層より資産は多いが、所得は少ない」というのが真実です。
シニア層は、所得は少ないが他の年齢層より資産は多いことから、「やっぱり資産持ちなので日常消費も多いのだろう。都心のデパートなどで高級品を買っているのは大半がシニア層ではないか」といった声が聞こえてきます。実態はどうでしょうか。
前掲の「家計調査」を眺めると、世帯主の年齢階級別の世帯当たり1か月間の「消費支出」は、50歳代が29万5千3百円、40歳代が29万千4百円と金額が多く、60歳代、70歳代になると減少します。これを見ると、1か月間の「消費支出」の傾向は、前掲の世帯主の年齢階級別の「年間所得」の傾向にほぼ比例していることがわかります。
この1か月間の「消費支出」の数値は、年間の消費支出を12カ月で除したものなので、厳密には月ごとに各費目の割合は多少変わっています。また、支出の中身は、毎月定期的に支出している食費や家賃などの「日常的支出」もあれば、年に数回しか支出しない旅行や冠婚葬祭のような「非日常的支出」も含まれています。しかし、この1か月間の「消費支出」の費目の大半は「日常的支出」です。
これらより、世帯主の年齢階級別の世帯当たり1か月間の消費支出は、ほぼ毎月の所得に比例していると言えます。つまり、資産が多いからと言って、それが日常消費に回っているわけではないのです。