なぜ、高齢になると他人の役に立ちたくなるのか?

2021年9月24日 チャームカレッジ第10回講義録

著名心理学者でも後半生の考察はなかった

これまでにも心理学者によって人の生涯における心理的発達の研究が行われてきました。

しかし、ジークムント・フロイトは「年長者を教育するのは無理な話」、ジャン・ピアジェは「発達は青年期で止まり、その後はゆっくり衰えていく」などと評して後半生の心理的発達を無視してきました。

また発達段階を細かく分類したエリック・エリクソンですら、成人期以降は成熟期とひとまとめにしており、後半生について詳しい考察をしてきませんでした。

エリック・エリクソンの弟子であるジーン・コーエンが初めて40代前半以降の後半生を「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の4段階に分類し、考察しました。

後半生の4つの発達段階とは

40代前半から50代後半に見られる「再評価段階」では自身の死を意識するようになる事で探求心や計画を立て実行するようになってきます。この段階では価値観の変化も起きるようになり転職やキャリアチェンジもみられます。

50代後半から70代後半に見られる「解放段階」では、今やるしかないといった気持ちが強くなり、会社勤めをやめて沖縄でダイビングを始めたり、パートをしていた主婦がダンススクールの講師になったりといった変化が起きやすい時期になります。

これには加齢による脳の変化も影響しています。脳は灰白質と呼ばれるコンピューターでいうチップの部分と白質と呼ばれるネットワーク部分とに分かれています。

灰白質は20歳を過ぎると右肩下がりに減少していきますが、白質は60代中盤まで増加する事が解明されており、解放段階にあたる時期には、計算や記憶の処理速度は落ちるが、潜在的な情報量は増えていくという変化が起きます。

定年退職や子育てを終える頃の年代は自己解放を促す精神のエネルギー(インナープッシュ)が湧き上がるようになり、大きなキャリアチェンジや熟年離婚なども増えていくとされています。

「まとめ段階」には世の中に恩返ししたくなる

60代から80代に見られる「まとめ段階」の特徴として、世の中に恩返ししたくなる気持ちが強くなります。行方不明になった女児を救出した事で注目を集めたスーパーボランティアの尾畠春夫さんは65歳の時に経営していた鮮魚店を閉めボランティア活動を始めました。

その時になぜボランティアをするようになったのかについて「学歴も何もない自分がここまでやってこられた。社会に恩返しをしたいと思った」と語っています。

尾畠さんに限らず、退職後に読み聞かせや清掃のボランティア、シルバー人材などで通学路の見守りをする人などボランティア活動を始める人が、この年齢層で多く見られるようになります。

ボランティアが継続できるには秘訣がある

ボランティア活動を継続する人の共通点は、他人から感謝されるとき、幸福を感じることです。これは他人からの感謝という「心理的報酬」によって「報酬系」と呼ばれる脳の神経システムが活性化し、やる気や元気を促す神経伝達物質ドーパミンの分泌を促すことに関係があります。

一方、ボランティア活動を義務的に行うと長続きしません。この理由は逆に報酬系が活性化しないため、ドーパミンの分泌も促されず、やる気が出ないためです。

ボランティア(volunteering)の本質は、自発的に行うことです。義務的で無理に参加する活動は、実はボランティアではありません。

なぜ、名経営者は「感謝すること」の重要性を語っているのか

一方、多くの名経営者は後年に「感謝すること」の重要性を語っています。この理由は、他人に感謝するときも幸福を感じるからです。

アメリカのNIH(国立健康研究所)が支援したオレゴン大学の研究によれば、ボランティア活動をする人はドーパミンが分泌される線条体が活性化することに加えて、脳内にエンドルフィンが分泌されることが確認されているとのことです。

エンドルフィンは体内で分泌されるモルヒネで多幸感をもたらす効果があります。「ランナーズ・ハイ」といったマラソンで苦しくなってきても走り続けていくうちに苦痛がなくなり気持ちよくなっていく状態の時に分泌されるとも言われています。

ボランティア活動をする事で多幸感を感じる理由を理解する一助になりますね。

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