映画「ALWAYS三丁目の夕日」山崎 貴監督の名作

スマートシニア・ビジネスレビュー 2006年2月28日 Vol. 83

最新の映像技術を駆使しているが、技術の存在を感じさせない名画「ALWAYS 三丁目の夕日」

昭和22年生まれの漫画家、西岸良平が、子供の頃の風景を描いたロングセラーの「三丁目の夕日」が映画化され、昨年11月から公開されています。

ある方の強い勧めで、遅まきながら久しぶりに映画館へ足を運んだ私は、その映画が終わったとき、涙で顔がくしゃくしゃになっていました。

私はコンピュータ・グラフィックス(CG)を使った映画が好きではありません。 これでもか、これでもか、とCGを多用するハリウッド発のアクション映画は、技術が作品よりも”前”に出ていて、作品の中味の無さを、映像技術でごまかしているように見えて仕方がないからです。

しかし、VFX(映像効果)第一人者の山崎貴監督は、この作品で最新の映像技術を駆使しているにもかかわらず、技術の存在をほとんど感じさせずに、昭和30年代という貧しかったけれど、温かく人情にあふれた懐かしい風景を描いています。

戦後復興のシンボルである東京タワー、地方から上京する人にとっての玄関口の上野駅、土管の置いてある空き地などのいくつもの風景が、幼い頃自分が過ごした風景を思い出させてくれます。

とりわけ印象深い東京の空の「夕日」のシーン

しかし、とりわけ注力したと思われるのは、この映画のタイトルである「夕日」のシーンでしょう。

かつて、東京の空にも、こんな美しい夕日があったのか。いや、夕日は今でも東京の空にもある。いつのまにか、自分はその夕日の美しさに、気づかなくなってしまっただけではないのか。

VFXという最新の映像技術が再現する数々の美しい昭和30年代の風景は、現代に生きる私たちが失ってしまった何かを、取り戻すよう働きかけてくれるようです。

VFXの第一人者はCGを一切使っていないシーンで、VFX(映像効果)の本当の意味を示している

山崎貴監督の出世作、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」一方、主人公の茶川竜之介(吉岡秀隆)が、慕っている石崎ヒロミ(小雪)に、結婚を申し出るシーンがあります。

売れない小説家の茶川は貧しくて、愛する女性に婚約指輪すら買えない。

結婚告白に用意できたのは指輪を入れる”箱”だけ

「指輪はいつか買うから、ウチに来て欲しい」

そう言われたヒロミは
「指輪をつけて欲しい」という。

茶川は”仮想”の指輪を箱から取り出し、ヒロミの薬指の爪の先からつけ根まで、
なぞるように、震えながら、指輪をはめていく。

ヒロミは、自分の薬指に”つけられた”指輪を涙を流しながらじっと見つめる。

VFXとは、CGや編集ソフトを使って映像効果を生み出すことと言われています。

しかし、VFXの第一人者は、CGを一切使っていないこのシーンにこそ、VFX(映像効果)の本当の意味を示しているような気がしました。

●関連情報

デジタル技術の逆説
スマートシニア・ビジネスレビュー 2003年12月8日 Vol.40