スマートシニア・ビジネスレビュー 2006年3月20日 Vol. 84

eat_beer_gold先日、「サツマイモのビール」を飲む機会がありました。

当初、サツマイモを原料にしたビールというのは
正直イメージが湧きませんでした。
しかし、百聞は一見に如かず。飲んでみると、
芳醇で深く、上品なまろやかさに驚きました。


サツマイモが原料の場合、日本の酒税法では、
発泡酒となりますが、味は紛れも無くビール。
昔ヨーロッパにいた時にドイツの田舎で体験した
美味しい地ビールと同じような味でした。

この「サツマイモラガー」の発明者は、
株式会社協同商事の朝霧幸嘉社長。

昭和22年生まれの団塊世代の朝霧さんは、
全国に先駆けて産直(産地直送)の有機野菜販売を
手がけたパイオニアとして業界で著名な方です。

朝霧さんが手がけてきた「業界初」は、
産地から八百屋まで鮮度を落とさず野菜を運搬する
コールドチェーンシステム、サツマイモだけでなく
ニンジン、スイカ、りんご、お茶を使った地発泡酒の商品化、など
枚挙に暇がありません。

朝霧さんの経営哲学で、私が深く共感するのは、
「ビジネスは非合理の中に商機あり」という考え方です。

KoedoBreweryたとえば、店を出すなら立地条件の悪いところに出せ、といいます。私が「サツマイモラガー」を味わったのは、製造工場に併設の「小江戸ブルワリー」というビアホールレストラン。

ところが、この場所は、埼玉県川越市の中心部から
遠く離れた市内の北の外れ。国道254号に近いものの、
国道に面しているわけでもない。

しかし、敢えてこうした悪条件で立地するのは、
朝霧さんの明確な考えがあるからです。

まず、市街地から離れているので土地代や賃料が安い。
そして、製造工場に直結したレストランで飲むから、
ビール・発泡酒すべての価格が安い。
料理に使う食材は協同商事が手がける安全な有機農法で
育った肉や野菜ばかりなので、料理が美味しい。

市街地にある冷凍食材ばかりを使った画一的な味の
レストランに飽きた人は、多少遠くても本物を
リーズナブルな価格で提供する店にやってくるものです。
さらに、悪条件を選ぶのは次の理由であるといいます。

gyakubari「立地が悪いと店にお客が来るように経営者も従業員も
頭を使わないといけない。来てくれるお客さんは
ありがたいから、従業員のサービスも自然によくなる。

(中略)

大半の経営者は店を出すときに、 はやるところ、
儲かるところ、人出の多いところへ立地しようとするが、
それじゃ努力しなくなるよ。努力するには悪い条件を選んだほうがいい」
(「小さくても長続きする逆バリ商売のすすめ」ダイヤモンド社より引用)

この言葉は、拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」の
第三章で取り上げた「ウィローバレー」と重なり、
大変共感を覚えます。

ウィローバレーとは、ペンシルバニア州の田舎の
人口6万人の小さな町にある2千戸の住居が
立ち並ぶ大規模リタイアメント・コミュニティ(アメリカ式の老人ホーム)です。

通常、こうした施設はフロリダやアリゾナなどの温暖で
利便性のよい場所につくるのですが、
ウィローバレーは、冬の寒い、市街地から遠く離れた場所に立地しています。

にもかかわらず、現状の入居率は、健常型も介護型も
ほぼ満室状態。なぜ、こうしたことが可能なのでしょうか。

その理由は、入居者参加型の独特の営業活動に
あります。見学者は全米から集まりますが、
この際の案内役を担うのが入居者なのです。

リタイアメント・コミュニティのような商品の
購入意思決定には、運営会社による営業トークより、
入居者の生の声による口コミが最も効きます。

また、たとえば、フロリダから来た見学者には、
フロリダから移住した入居者が案内します。
こうした工夫により見学者は、なぜ著名なフロリダに
住まず、ウィローバレーに移住したかの理由を
入居者の視点で知ることができるのです。

こうした「住民参加型」の営業活動を効果的にするために、
コミュニティの売りを上手に説明するための研修を
事前に案内役向けに行います。
また、見学者が入居を決めた場合、
案内役の月間費が据え置かれるなど
経済的なインセンティブも用意されています。

悪条件に立地をすることで、逆に経営者や従業員が
頭を使って工夫をするようになるというのは、
こういうことなのです。

先に「ビジネスは非合理の中に商機あり」と書きました。
しかし、この「非合理」というのは、
実はこれまでの通説や俗説から、
勝手に「非合理」だと思い込んでいる人が
多いだけのことなのです。

時代が変わり、市場の性質が変わったにもかかわらず、
過去の成功事例に引きずられ、
思考が変わっていない経営者・マネジャーは多い。

それらの人が「非合理」だとレッテルを貼っているに
過ぎない分野に商機があることを
朝霧さんは実践で示しています。

多くの人が「非合理」だと思っている分野こそ、
ビジネスの合理性が存在するということでしょう。

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