子供の頃食べたお菓子はノスタルジー消費の一例

週刊朝日 2021年6月18日号

週刊朝日のライターさんから「ノスタルジー消費について話が聴きたい」との取材を受け、それを基にした記事が掲載されました。少し拡大解釈されているので、私が考える「ノスタルジー消費」について説明しておきます。

「ノスタルジー消費」とは

ノスタルジー消費とは、主に40代以降に現れる消費形態で、特定の世代の「世代原体験」が影響を及ぼす消費行動です。40歳を過ぎた頃から見られますが、50代、60代でも見られます。

「世代原体験」とは特定の世代が20歳頃までに共通に体験する文化で、食生活、文学、音楽、映画、漫画、テレビ番組、ファッション、スポーツ、生活環境などがあります。

05年に大ヒットした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」は「団塊の世代以降」、91年に大ヒットしたドラマ「東京ラブストーリー」の25年後に出た続編漫画は「しらけ世代」、ディスコや”なめねこ”が登場するY mobile のコマーシャルは「バブル世代」のノスタルジー消費を促している例です。

また、NHK朝ドラの時代設定は、戦前・戦後、高度成長期を中心としており、朝にテレビを見ている昭和文化を原体験に持つ年齢層のノスタルジー消費を狙っています。

「ノスタルジー消費」の心理行動学的意味とは?

ノスタルジー消費が起こるのには次の行動心理学的背景があります。

一般に20代から30代は進学、恋愛、就職、結婚など初めての体験が多く、予想が難しく夢中で取り組み、わくわく感が多い時期です。

ところが、40代を過ぎると目新しいことが減り、生活が平板化して以前のようなわくわく機会は減りがちです。すると、その反動としてわくわく・ドキドキする刺激(ドーパミン系刺激)を求めるようになります。

ここでドーパミン(dopamine)とは中枢神経系に存在する神経伝達物質の一つです。ドーパミンは、昔は快楽物質と呼ばれましたが、現在は「やる気」「元気」や「求める気持ち」を生み出す役割があると考えられています。

ドーパミン系刺激とは、このような「やる気」「元気」を生み出す、わくわく・ドキドキする刺激のことをいいます。

「ノスタルジー消費」の特徴とその理由は?

40歳以降になって「ノスタルジー消費」として選択する刺激は、「新しいもの」より「昔なじんだ安心なもの」を求める傾向があり、次の二つの理由が考えられます。

一つは、脳機能の低下により新しいことの学習がおっくうになるためです。

一般に加齢とともに私たちの脳機能、例えば、知覚速度、推論、記憶、知識、流暢性などは衰えていきます。特に記憶できる量(作動記憶量)が減っていくと、新しいことの理解に時間がかかります。新しいことの学習がおっくうになるため、「新しいもの」より「昔なじんだ安心なもの」を求めたくなるのです。

もう一つは、昔なじんだことは追体験効果が出やすいためです。

記憶は一般に情動を伴っています。情動的な体験をするとそのことが記憶に残りやすく、その記憶を想起する時に情動も一緒に追体験されます。幼い頃なじんだ文化体験に触れることで、当時の記憶が呼び起こされます。すると、当時経験した情動も一緒に呼び起こされるのです。

これにより、若くて元気で幸せだった当時の自分を追体験します。これが、ドーパミン系の活性化につながるのです。

西武園ゆうえんちはノスタルジー消費か?

近年「西武園ゆうえんち」「台場一丁目商店街」のように昭和の街並みを再現したような施設が少しずつ増えています。

ところが、こうした施設の来場客は50代以上の中高年よりも10代から20代が圧倒的に多いのが実態です。台場一丁目商店街の客層は10~20代が8割といいます。

実は10から20代にはこれまで見たことがない「新しさ」が受けています。ところが、昭和文化を「世代原体験」に持つ人には、こうした施設は「造り物」に見え、わざわざ高額な料金を払って行こうという気になりません。

外見を懐かしの昭和の風景に模倣しただけでは、当該世代にとってのノスタルジー消費には結びつかないのです。