スマートシニア・ビジネスレビュー 2005年2月14日 Vol. 64

Waga_seishun_ni_kuinashi私は黒澤明の映画が好きです。
そのなかの「わが青春に悔いなし」という映画を
知人に勧めたところ、

「この映画は学生時代に観たが、何十年ぶりに観たら、その頃観たのと全然違う映画に見えた」というコメントが返ってきました。

こういった体験は、若年層より中高年層に圧倒的に多いのではないでしょうか。

私自身も昨年13年ぶりにパリを訪れ、
仕事の合間に美術館に足を運んだ際、
同じような感覚に遭遇しました。

美術館の展示物は、
13年前と何も変わっていませんでした。
にもかかわらず、それらの展示物は
13年前とは全く違って見えたのです。
まるで、それらの展示物が発する情報が、
13年前に比べて量も増え、
質も異なっているかのようでした。

しかし、本当は、それらの展示物は、
その美術館ができた何十年前から
何も変わっていない。

変わったのは、
展示物を見る側の「認識」なのです。

なぜ、人は、年をとると、
認識が変わるのでしょうか。

この問いに対する科学的な答えは、
まだ存在していないようです。

私の独断的想像では、
「年をとるという過程」で起こる様々な体験に応じて、
新たな認識を司る神経細胞が、
創生されていくのではないかと思っています。

科学的なメカニズムはともかく、
重要なのは、人の認識というのは、
年をとるに従って変化するということです。

団塊世代というと、「思い出商品」「ノスタルジー消費」など、
この世代特有の嗜好性に訴求した
売込みがなされる傾向があります。

しかし、世代特有の嗜好性は、
消費行動を決定する一要因に過ぎません。
しかも、この嗜好性は生涯に渡り
同じとは限らないのです。
対象物の認識としての「好み」は、
前述のとおり、加齢と共に変化するからです。

少し前に、70年代のヒット曲のミニCDを
おまけにしたお菓子が、
コンビニに並んでいた時期がありました。

新聞や雑誌では「団塊世代にヒット」などと
報道されていましたが、多くの店舗で売れ残り、
投売りされていたのが実態です。

この商品が苦戦したのは、
「団塊世代はフォーク世代。彼らの青春時代にヒットした
フォークの曲をミニCDにして、お菓子とくっつけて
コンビニに置けば、意外性で売れるのではないか」
という仮説の荒っぽさではないでしょうか。

確かに、南沙織の「17歳」や、
はしだのりひことシューベルツの「花嫁」は、
懐かしい。

しかし、団塊世代が、今、これらのCDを買うとすれば、
その理由は単なる「懐かしさ」だけではないと思います。

学生時代に聞いた曲が、30年以上の年月を経て、
それは確かに同じ曲なのだけれど、
その詩の意味やメロディが、当時よりも深く、心に響く。

その人の現在の認識の深みにマッチすることが、
既にLPやEP(ドーナツ盤)で持っている昔のヒット曲を、
改めてCDで買い直す理由なのではないでしょうか。

つまり、商品提供側は、単にその世代に対して
昔ヒットした商品を持ってきたり、
どこかでヒットした商品をくっつけたり
するだけではダメなのです。

言い換えると、現代を生きるその世代に対する
「新たな解釈の提示」が重要なのです。

この解釈の独自性こそが、
クリエーターと呼ばれる職種の
これからの存在意義となることでしょう。