販促会議12月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 第10 

表紙前回取り上げた、家電メーカー同様、シニアシフトへの対応が遅いのが食品メーカーだ。特に菓子や乳製品は長い間子どもや若者など若年層がターゲットだったため、メーカーの中に「菓子は若者向け」という固定観念ができ上がっている例が多い。しかし市場がどんどん高齢者層にシフトしているのだから、市場の変化に合わせて供給サイドも発想転換の必要がある。

 

1.「子ども向け」に売っていたものを「シニア向け」に売ってみる

 

食品メーカーの新製品プレスリリースを見ると、ターゲット顧客が「20代から30代」と記載されている例が非常に多い。しかし、製品をよく眺めると、ちょっと工夫すればもっと上の年齢層にも売れそうなものも多く見られる

 

例えば、森永乳業が森永製菓とコラボして商品化した「ミルクキャラメルプリン」 がそうだ。この製品は、「森永ミルクキャラメル」の発売100周年を記念して企画されたもので、主要ターゲット「2030代男女」となっている。

 

ここで、連載第5回で取り上げた「世代特有の嗜好性」の観点で見てみよう。幼少の頃にミルクキャラメルを食べた「世代原体験」を持つ4060代の人にもこの商品を適切に打ち出すことで、「あら、懐かしいわね」「あのミルクキャラメルの味がプリンになったの、どんな味かしら」といった「ノスタルジー消費」が起きる可能性は少なくない。

 

また、1965年からある森永乳業の「マミー」は、今では小売店では紙パックで販売している。例えばこれを、発売当時のデザインの「ビン入り」で販売できれば、50代以上の「ノスタルジー消費」が喚起されやすくなるのではないか。50代以上にとって、幼少の頃、毎朝自宅の牛乳箱に届く「ビン入りマミー」を飲むのがちょっとしたぜいたくな楽しみだった人は少なくないだろう。

 

あくまでアイデアだが、こうした「世代原体験」をもつ人たちに懐かしさを感じてもらい、つい商品を手に取ってみたくなるアプローチはシニアには有効だ。

 

2.呼び名ではなく「効能を明確に」訴求

 

私はシニアビジネスの専門家であり、シニアという言葉は何度も使ってきたが、商品を売るときに「シニア向け」とうたって売れ、とは一度も言ったことがない。年長者の中にはシニアと呼ばれることを嫌う人が多いからだ。そのため「シニアに代わる何か良い呼び名はありませんか?」という質問を何度も受けてきた。

 

結論から言うと、特定の年齢層を一つの言葉で表すのは無理があるので、そうした呼び名はしない方がよい、というのが私の考えだ。もちろん、「団塊世代」「焼け跡世代」など世代原体験を共有する特定の世代を「○○世代」と呼ぶのは構わない。ただし、連載第5回で述べた通り、対象者が「世代原体験」を共有していることが必須条件だ。

 

一方、シニアより下の、3040代をターゲットにした菓子や乳製品においては「大人」という言葉を使った「大人の〇〇」といった名前の商品が多く見受けられる。こうした商品は、「ちょっとしたぜいたく感」のことを「大人」と言っていると推測されるケースが多いが、「何が大人向けなのか」をはっきり表現しているわけではない

 

しかし、シニア世代に向けて訴求する場合、あえて何かをはっきり言わない「大人の」という言葉を使うよりも、これまで本連載で述べてきたシニアのさまざまな変化に即した「効能を明確に訴求する」方がよい

 

例えば缶コーヒーなら、「脂肪を消費しやすくする ヘルシアコーヒー 」など非常に分かりやすい。もちろんこの場合は特保商品だから、ということもあるが「何をどうしてくれるのか」を明確にするのは重要である。

 

3.高齢者住宅・施設に直接出前販売する

 

菓子や乳製品の流通は、その大半がスーパーやコンビニ、駅のキオスクなどの量販店・小売店である。しかし、こうした量販店・小売店のみに依存すると、前回の家電メーカー同様、最終消費者の声が届かず、ピントの外れた商品を企画・販売してしまい、機会損失してしまうことにつながる。

 

それを少なくするには、メーカーといえども直接消費者に販売する機会を設け、消費者の生の声を商品企画担当者が聞き届ける体制が不可欠だ。

 

そこで可能性が大きいのは、シニアシフトで増え続けている高齢者住宅・施設に直接出前販売することだ。実は牛乳の宅配システム、女性によるヤクルトの宅配など、乳製品はこれまでも出前販売を実施してきた長い歴史がある。また、菓子でもグリコが「オフィスグリコ」のように都心の事務所をターゲットとして菓子の宅配を成功させてきた。

 

高齢者住宅や施設の入居者には、足腰が弱ったため外出が難しい人が沢山いる。これらの人たちをターゲットに、彼らが喜びそうな菓子と乳製品を定期的に届ける仕組みを構築するのだ。外出機会の少ない入居者たちにとっては、便利であるだけでなく、出前の際にちょっとした会話の機会が得られることもよろこばれる。

 

一方、メーカーにとっては、従来の小売店舗とは異なる流通チャネルを開拓できるだけでなく、顧客の生の声が聴ける機会も増える。さらに、こうした住宅や施設では入居者以外のスタッフにも多くの商品ニーズがある。こうした現状を食品メーカーの幹部はあまりご存知ないように思われる。

 

4.退職シニアの仕事の受け皿をつくる

 

厚労省による都道府県の調査によれば、高齢者の有業率が高いほど、一人当たりの老人医療費が少なくなることが分かっている。つまり、仕事を通じてなるべく現役でいる方が、高齢になっても病気になりにくいことを示しているのだ。

 

昨年2012年より人数の多い団塊世代が65歳に達し、退職者が増えている。だが、退職後毎日何もやることがなく、自宅にこもっていると、何かにつけ気持ちが後ろ向きになりがちだ。これを防ぐには、やはり何らかの仕事をして年金以外の収入を得るのが一番だ。問題は仕事の機会が少ないことである。

 

一方、乳製品メーカーは従来、独自の戸別宅配サービスをもっている。例えば、今後増えていく地域在住の退職者に、このサービスの担い手になってもらうのが需要と供給の両面でよいのではないだろうか。

 

とはいえ、年金のある退職者はフルタイムで仕事をする必要はない。自分の住んでいる地域で週3日程度のパートタイムで十分だ。早朝の宅配は、目覚めの早いシニアにピッタリの「ちょっとした仕事」なのだ。

 

 

参考文献:シニアシフトの衝撃