2013年10月10日 シルバー産業新聞連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第79回
高度成長期に業績を拡大してきた企業には、いまだに若者やファミリー層を主要ターゲットにしているところも多い。年々売上げ減にさらされているにもかかわらず従来のビジネスモデルからなかなか脱却できていない業態の一つがファミリーレストランだ。こうした業態では、シニアシフトの進展に合わせて新たな方向性が求められている。
退職シニア層には「第三の場所」の機能を提供する
ファミリーレストラン最大手のすかいらーくが、約1300店ある「ガスト」を2014年から4年間で130億円を投じて全店改装する。改装の柱はシニア層への対応だ。4人がけのボックス席は背もたれを高くし、個室感覚で使えるようにし、内装も落ち着いた木目調などにするとのことだ。
しかし、せっかく多額の投資をするのであれば、退職シニア層のニーズをとらえた本質的な改装に踏み込むべきだ。そのカギとなるのは「退職者のための第三の場所」の機能である。
私が10年前から提唱してきたこのコンセプトは、多くのサービスに反映されてきた。近年コメダ珈琲などのシニアをターゲットにしたカフェは、まさにこの機能を提供している。
しかし、カフェだけが唯一の形態ではない。「退職者のための第三の場所」の本質は、会社を辞めて毎日行く所のなくなる退職者のための社会的居場所だ。従来のファミレスは、この受け皿になることで成長市場になる可能性がある。
自宅以外の書斎・知的作業スペース、打合せスペース、同窓会・勉強会会場、懇親会場など種々の受け皿が考えられる。実はこうした機能は「銀座ルノワール」が喫茶店を基軸に展開してきたものだが、ファミレスの今後の方向性としても十分可能性がある。
少人数グループには「小口化対応」を徹底する
従来のファミレスでは名前の通りターゲットが人数の多いファミリー層だった。このため、六人がけのテーブル席が圧倒的に多く、少人数の客には使いづらかった。しかし、今後は単身世帯や高齢夫婦二人世帯の増加に伴いこうした少人数グループへの対応が必要だ。
具体的には、①二人掛けテーブルの割合を増やす、②単身世帯向けにカウンター席も用意する、③量より健康の質を重視したメニューを増やす、などが必要だ。特に③については、従来子供や若者向けのハンバーグ、スパゲティ、カレーを中心とした高カロリーで味の濃いものが多かった。
これに対し高齢夫婦世帯には焼き魚や煮魚、野菜が多めの和食メニューが好まれる。定食チェーンの「大戸屋」は、実はこうしたメニューが多く、シニア層の利用も多い。
東京・麻布十番に「カフェ ラ・ボエム」というイタリアンレストランがある。ランチタイムに行くと、子連れママさん達のたまり場になっていて驚く。この店の近所にファミレス大手の「ジョナソン」があるが、そちらにはこうした子連れママさんはほとんどいない。従来のファミレスは、実はファミリー層にも避けられているのだ。
ファミレスの食事は、工場生産の冷凍食材を温めただけのものが多く、味が今一つである。また、内装はいかにもファミレスといった画一的なものが多い。これに対し、「カフェ ラ・ボエム」は中世風の内装のカフェレストランでファミレスではない。料理は手作りで、ランチメニューなら前菜、パスタ、デザート、スープとソフトドリンクは飲み放題で1200円程度と価格は手頃だ。
子連れヤンママ世帯だからファミレスに行くと思い込んでいるのは、恐らくファミレスの経営者だけではないか。彼女たちは子連れだからといって従来型ファミレスやイオンやイトーヨーカドーのフードコートばかりに行きたいわけでは決してない。「子連れヤンママ向けのレストラン=ファミレス」というステレオタイプも捨てた方がよい。
参考文献:シニアシフトの衝撃