スマートシニア・ビジネスレビュー 2013年11月25日 Vol.199
11月23日の日経朝刊と本日の日経MJに「デニーズ、シニア客向けスタンプカード デザート無料」という記事が掲載されました。
記事の要旨は『ファミリーレストラン「デニーズ」で60歳以上のシニア客を対象にしたスタンプカードを発行する。カード会員にデザートを無料で提供するほか、スタンプ数に応じて料金も割り引く。シニアに限定したサービスは外食業界では珍しい。』とのこと。
この記事で私がひっかかったのは「シニアに限定したサービスは外食業界では珍しい」の箇所です。というのは、デニーズを含めた外食産業の本場アメリカでは、10年以上前からシニア向けサービスが存在しており、日本の外食産業でも数年前から取り組みがなされているからです。
たとえば、IHOPというパンケーキを中心とした朝食専門のレストランでは、99年ころからシニア向けメニューがあります。
ただし、上の写真をご覧いただければお分かりのように、シニア向けメニューと言っても、日本の例のように量が少なめでヘルシーということでなく、単なる価格の割引です。
私自身もIHOPに何度か行ったことがありますが、朝食からカロリーたっぷりのパンケーキを食べる習慣は日本人にはなじまないので、これはアメリカ的だなと思ったものです。
また、マクドナルドやバーガーキングなどのハンバーガーショップでは、ハンバーガーとセットの場合、シニア向けに通常1ドル程度のコーヒーが60セント程度に割引されます。
さらに、ダンキンドーナッツやタコベル(タコスのチェーン店)でも、同様のサービスがあります。
このようにアメリカでは、外食産業でもかなり以前からシニア向けサービスが存在していました。ただし、これらの大半は対象が55歳以上。55歳以上がシニアという定義を見ると、これらのサービスが一昔前に制定されたものであることがわかります。
拙著「シニアシフトの衝撃 第10章 年齢訴求は要注意 受け入れられる場合、ダメな場合」で詳述したように、シニア向けサービスはその内容によって、受け入れられる場合とダメな場合とがあります。
日本よりも年齢差別に対する批判が厳しいアメリカでは、年齢訴求を用いるコマーシャルや宣伝は細心の注意が必要です。しかし、その例外がシニア割引です。理由は、明らかに経済的メリットがあると感じられるからです。
一方、日本でもジョナサンなど、すかいらーくグループでは、60才以上は申請すれば常に5%引きとなるサービスを導入しています。また、関西中心のフレンドリーでは60歳以上を対象にいつでも飲食料金から50円割り引く「フレンドリーシニアパスポート」を導入しています。このように日本でも「シニアに限定したサービスは外食業界では珍しい」ということはないと思います。
とはいえ、アメリカの外食産業が10年以上前からこうしたシニア向けサービスに取り組んできたのに比べると、日本の外食産業、とりわけファミリーレストランでは導入時期が遅かったのも事実です。
この最大の理由は、「ファミリーレストラン」というカテゴリーに自己拘束され、あくまで自社の顧客は「ファミリー層である」という固定観念にとらわれていたことにあります。その結果、人口動態のシニアシフトと言う市場の変化に対応してこなかったのです。
高度成長のおかげで、ファミリー層の生活水準がアメリカ並みに上がり、「たまにはちょっと贅沢に家族全員で外食でも」という価値観が時代に広がってきた。それに合わせて成長してきた業態がファミリーレストランだったのです。
もともとアメリカの模倣からスタートしている日本のファミレス業界なので、今後は逆にこうしたシニア向けサービスが加速的に増えていくことでしょう。
参考文献:シニアシフトの衝撃
シニアシフトと業界の取るべき方向性 (1)ファミリーレストラン
販促会議9月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 第七回
日本経済新聞 2013年11月23日朝刊、日経MJ 2013年11月25日(有料記事)