シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第195回
機能性とファッション性の両立が必要
ひと昔前のシニア向け商品は、機能のみを重視した結果、「ダサい」「時代遅れのデザイン」というイメージがあった。だが、最近のシニア層はファッションに敏感で、商品のデザインにも大いに気にする人が増えている。
ハズキルーペが売れているのは、老眼鏡の「ダサい」イメージを脱したからだ。団塊世代以降の世代は、若い頃からファションに興味を持っていた人が多く、こだわりも強い。こうした人たちが後期高齢者になりつつあり、ファッション性も重要になっている。
下着メーカーの島崎(埼玉・秩父市)は、若い頃には想像もしなかった体の「不具合」をエレガントに解消する「フリープ」と呼ぶ独自開発の製品シリーズで中高年女性の心をつかんでいる。
利用者の年齢層は50歳以上が60%、性別はほぼ女性だ。なぜ中高年女性に受けているのか、同シリーズの人気商品で解説する。
累計12万枚以上売れた「前開きブラ」
千葉県の吉川清美さん(72歳、仮名)は、「肩が痛く、腕が背中に回らなくて困っていたが、これだと着脱がとても楽で助かる」と言う。
通常のブラジャーは背中側にホックがあるが、50代を過ぎるといわゆる「五十肩」などで吉川さんのように腕を後ろに回せなくなる人が増える。
前開きブラはこうした需要をすくい上げたものだ。実は、この商品は乳がん手術を受けた人にも大きな需要がある。
前側にホックのあるブラジャーは他社にもあるが、カップの下側をワイヤーやゴムで締め付けるものが多い。これに対してフリープでは、伸縮性の良いパワーネットを用いて締め付け感やゴムかぶれを解消している。この点も評判が良い。
累計8万枚以上売れた「カップ付きタンクトップ」
愛知県の田中知子さん(66歳、仮名)は「肌が敏感なため化学繊維だとかゆくなるが、肌側が綿100%で触り心地が良く、ありがたい」と話す。
着用時のかゆみを防ぐために、縫い目や縫い代が出来る限り肌にあたらないようにし、素材には空気を多く含んだ綿を用いてふんわりとやわらかい着心地にする、きめの細かな縫製が受けている。
へその下部分まで深く履ける「深ばきショーツ」
下腹の冷えを抑えたい中高年女性向きの製品だ。福岡県の平田節子さん(62歳、仮名)は「深ばきでもデザインと色がかわいく、下着は楽しいものという気持ちにさせてくれる」と言う。
島崎はこうした商品開発のための顧客ニーズをどのように吸い上げているのか。一つは、オンライン直営店舗やSNS経由での利用者のコメントだ。担当者の丁寧な応対により質の高いコメントが集まっているようだ
もう一つは、電話でのコミュニケーションだ。年配者からは電話注文も多い。接客時間は長めになるが、細かなニーズをつかむ絶好の機会となっている。
さらに、電話やFAXでの購入者に対して定期的にアンケート用紙を郵送する。年間900件を超える返信があり、回答に加えて、手書きの手紙を添えてくる人も少なくない。
こうした購入者の「生の声」は岩手県陸前高田市の工場の社員にも共有される。生産現場のモチベーションアップになり、製品改善や新商品開発に有用とのことだ。
ちまたではDX推進が喧伝されているが、デジタル一辺倒ではなく、アナログ情報の活用も重要なことがよくわかる。
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