シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第130回
私たちが運営している事業支援カレッジ「東北大学スマート・エイジング・カレッジ(SAC)東京」が4月から第4期を開講する。私は本連載ではなるべく介護分野以外のシニアビジネスの話をしているが、実はSAC東京には多くの介護関連事業者が参加している。
第3期(2017年度)は全参加企業61社のうち25社、何と4割以上が介護・高齢者住宅・介護用品事業者なのだ(表参照)。過去3年間のうち、直近の第3期に最も多いのが特徴だ。
介護関連事業者にとって理論とエビデンスが有用
介護関連事業者がSAC東京に参加する理由は次の2つである。一つは、認知症ケアやリハビリなどにおける正しい理論と科学的なエビデンスに対する期待だ。
近年介護施設や高齢者住宅において認知症ケアや予防のニーズが高まっている。だが、介護現場で実施されているプログラムには理論的背景が曖昧なものが多い。
いわゆる「脳トレ」「脳の活性化」などを謳っているものの、科学的エビデンスが明らかでないものも少なくない。何よりも介護現場のスタッフが脳科学の知識を持たないまま実施するため、効果が出ない例も多い。
これに対し、SAC東京は東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターが運営しており、センター長の川島隆太教授、副センター長の瀧靖之教授はじめ多くの著名な脳科学者が参加し、最先端の脳科学研究に基づく知見を参加者に提供している。
特にセンターの脳科学研究環境は日本でも有数のものであり、厚生労働省に「対認知症非薬物療法のスタンダード」と評価された「学習療法」をはじめ、その研究開発実績は世界でもトップクラスと評価されている。
民間企業では難しいこうした学術的な実績への信頼感は介護事業者にとり有用であり、個別の産学連携の依頼も多くなっている。
介護保険外ビジネスのヒントも得られる
もう一つは、介護保険外ビジネスのためのヒントだ。SAC東京では月に一度の月例会で上述のセンターの5つの研究分野から様々な生命科学の知見が提供される。
これらを「アイスブレイク」「グループトーク」「グループ質疑」といった手法でシニアビジネスへのヒントに転換している。(SAC東京のサイトに膨大な情報が掲載されているのでご覧下さい)
これが閉塞感にとらわれやすい介護関連事業者にとってかなりの知的刺激となっているようだ。
これから既存事業は「スマート・エイジング・ビジネス」になる
わが国の高齢化率は17年9月現在で27.6%を超え、100歳以上のセントネリアンが全国に6万5692人存在する。人生100年時代という枕詞が最近よく使われるのは、こうした事実が背景にある。
だが、こうなると長寿ということの意味が変わってくる。平均寿命が短い時代は長く生きること自体に価値があり、めでたいことだった。しかし、人生100年時代は「単に」長く生きるかより、「いかに」長く生きるかが問われる時代である。
その処方箋として11年前に私が提案した概念が「スマート・エイジング」である。もともとの定義は「エイジングによる経年変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟すること」である。
多くのサラリーマン男性が退職すると人との交流機会が減るため「①社会性」が減っていく。奥さんに先立たれると、料理が不得手な多くの男性は食事の質が下がり、「②バランスのとれた栄養」が失われる。やることがないと外出機会が減り、「③運動」が減る。さらにテレビを見る時間が増えると大脳の前頭前野に抑制がかかり「④認知刺激」が減って認知症予備軍となる。
ちなみに①から④は「スマート・エイジングのための四大要素」である。このように人は高齢になるにつれ「スマート・エイジング」ではなくなっていくのだ。
私はこれまでのべ3,000人以上の60歳以上の人にスマート・エイジングの話をしてきた。そこで得た実感は、多くの人はスマート・エイジングで生きていきたいと思っていることだ。
ということは、企業は「顧客のスマート・エイジングを支援するビジネス」が人生100年時代のシニアビジネスだと認識すべきだ。
既存事業をスマート・エイジング・ビジネスにする秘訣にご興味のある方はぜひSAC東京第4期の門を叩いてください。