高齢者の床上時間・睡眠休養感・死亡リスクの関係

穴吹コミュニティ さーぱすねっと 人生100年時代のスマート・エイジング

株式会社穴吹コミュニティが運営する入居者専用「さーぱすねっと 人生100年時代のスマート・エイジング」に表題の小論が掲載されました。以下、その全文です。

健康づくりのための睡眠ガイド2023と2014年の指針との2つの違い

10年ぶりに改訂された厚労省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」が公表されています。10年前の「健康づくりのための睡眠指針2014」との大きな違いは次の2つです。

1.「高齢者」「成人」「こども」の3つの年代別に推奨事項をまとめたこと

2.光・温度・音等の環境因子、食生活・運動等の生活習慣、睡眠に影響を与える嗜好品との付き合い方に関する参考情報を付帯したこと

ガイドでは、1日の推奨睡眠時間を、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間、成人(40歳〜60歳未満)は6時間以上としています。

高齢者には睡眠時間より「床上時間」重視を推奨

一方、興味深いのは、高齢者(65歳以上)に対しては睡眠時間ではなく、「床上時間を8時間未満にする」と推奨している点です。

床上時間とは寝床にいる時間のことです。この点は次に挙げる科学的根拠が背景となっています。

スタンフォード大学のKaplanらは、約6000 人について平均11年間追跡調査を行い、睡眠と寿命の関係を解析した結果、65歳以上の高齢者では、睡眠時間と総死亡率の関連は明確にならず、床上時間が約8時間以上の場合に総死亡率が増加することを明らかにしています。

また、ピッツバーグ大学のBuysseらは、活動量計を用いて床上時間を測定し、長い床上時間が総死亡率の増加と関連することを示しています。

腰・膝などの関節疾患のため、床上時間を減らすことが難しい場合もあると思いますが、前掲の研究結果は、必要以上に活動を控え、床上時間を増やし過ぎると、長期的な寿命短縮リスクが増加する可能性を示しています。

床上時間を8時間未満にするには「睡眠休養感」の向上がカギ

一般に加齢に伴い、途中で目が覚めやすくなる(中途覚醒)、早く目覚めすぎる(早朝覚醒)など、睡眠効率が低下します。すると「睡眠休養感(休養がとれている感覚)」が不足し、長寝を助長して、床上時間が長くなる悪循環に陥りがちです。

ガイドによれば、床上時間の目安は、1週間の平均睡眠時間(実際に眠っている時間)+30分程度です。

この目安に従えば、床上時間を8時間未満にするためには、平均睡眠時間を7時間半未満にする必要があります。中高年にとっては少し厳しい条件ですね。

このためには十分な「睡眠休養感」を得ることが重要で、そのポイントを次に挙げます。

ポイント1:眠りと目覚めのメリハリをつける

  • 日中は運動することを習慣づけ、長時間の昼寝を避ける
  • 日中にできるだけ長く太陽の光を浴びる
  • 入眠2時間前にはテレビ、パソコン、スマホは見ない
  • 毎日朝食をしっかり摂る

ポイント2:光・温度・音に配慮した寝室環境を心がける

  • 寝室は暗くする
  • 寝室温度は心地よい温度に保つ

ポイント3:嗜好品は控えめにする

  • 入眠2時間前にはお酒を飲まない
  • 昼間でもカフェインの取り過ぎに注意する

上記ポイントの科学的根拠は、ガイドの「睡眠に関する参考情報」に詳細な説明があります。ご興味のある方は、次からダウンロードしてご一読ください。

厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023

また、拙著「スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣」「秘訣その7 不眠の原因を取り除く」にも関連情報が豊富にありますので、ご活用ください。

スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣(徳間書店)