高齢化対応ロボットは誰のために?

スマートシニア・ビジネスレビュー 2009年11月4日 Vol.135

違和感を感じる日本の高齢者向けロボットの取り組み

少し前にNHKBSで「高齢化する世界」という番組を観た。

番組では社会の高齢化で生じた課題に対する各国の取り組みを断片的に報じていた。多くの国では不足する介護従事者を補うために、多くの移民を受け入れている。

だが、日本は移民を受け入れずに別の道を模索している、というシナリオで日本の高齢者向けロボットの取り組みを紹介していた。

ある研究所の例では、大人の女性に見立てた人形を巨大なロボットが抱きかかえて運ぶ場面が見られた。また、ある大学の例では、声による命令に従ってロボットが焼きあがった食パントーストをお皿に載せたり、皿を載せたお盆を食卓まで運搬する場面が見られた。

私はこの番組を見て、二つの点で「ちょっと違うな」と感じた。

第一は、番組制作者が日本という国は不足する介護従事者の代わりにロボットで対応しようとしている、という決めつけたイメージを強調しようとしている点。第二は、研究所や大学におけるロボット開発の方向性が現場の感覚と“ズレ”ていると思われた点である。

特に第二の点について、16年ほど前に自らが関与していた建設ロボットプロジェクトのことを思い出した。

建設ロボット開発と似ている介護ロボット開発

このプロジェクトは、12のロボットメーカーと40のゼネコンが大同団結し、建設現場で利用する建設ロボットを共同で開発・普及させようというものだった。

プロジェクト実施当時、建設業界はいわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」と呼ばれる不人気業種と言われ、学生の新卒者が激減していた。このままでは建設現場を支える労働者が不足し、将来大変なことになるという危機感が業界に蔓延していた。

そこで、労働者不足を日本の得意なロボットで補おう、というのが、建設業界におけるロボット開発の発想だった。

ところが、労働者の代わりをロボットにやらせようとすると、非常に精巧なものが必要になる。実は、これは大変なコストアップになる。

また、複雑な動作制御が必要となり、電気計装面の割合が増える。すると、建設現場のような土埃や水気の多い場所では故障の原因となりやすい。現場の作業者は、こうした電気計装面での故障を非常に嫌う。なぜなら、故障して作業ができなくなると、自分たちの日銭に直接響くからだ。

さらに、当初予想外の反応が建設現場から起きてきた。こうしたロボットが現場に導入されると、自分たちの仕事がなくなってしまうと恐れる現場の工事業者が、これらのロボット開発に反対したのだ。

誰の、何のために、なぜ、ロボットを開発するのか

これらのことを学んだ結果、建設ロボット開発の方向性は、次に修正された。

1.現場労働者の代わりをロボットにやらせるのではなく、現場労働者の負担や苦痛を軽減する作業をロボットにやらせる
2.作業を全自動化するのではなく、労働者が現場で使いやすくなるような必要な機能のみ機械化する

ロボット技術は、それを必要とされている人の意見をよく取り入れて商品に反映されれば、大変有用である。しかし、多くの場合、この当たり前のことがなされずに、開発者の思いのみで開発されるロボットが相変わらず多い。

大学や研究所というところでは、往々にして研究者が「研究者エゴ」の満足を研究の動機としがちだ。だが、こうした動機だけで研究開発されたロボットは、研究者としては面白いかもしれないが、実際の現場で、まず使われることはない。

「誰の、何のために、なぜ」商品を開発するのか。

 NHKの番組を観ながら、16年前の体験を重ね合わせ、この問いを自問自答し続けることの重要性を改めて認識した次第である。

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