スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年4月27日 Vol. 49
経済成長の陰で進む社会の高齢化
最近の中国というと、
経済成長する国のイメージが強い。
気がつけば身の回りには
中国製品がかなり増えた。
以前は、安っぽい人形などが多かったが、
最近は家電やコンピューターなどの
ハイテク製品も中国製が多い。
だが、そのような経済成長国のイメージに隠れ、
ほとんど知られていないのは、高齢化の実態だ。
中国では、日本の総人口を上回る
1億3400万人がすでに60歳以上なのである。
これが2050年には4億人を超えると 予測されている。
中国は総人口が12億9千万人と多いので、
高齢化率でみれば、日本の方が大きい。
だから、日本の方が大変だ という風に見えるかもしれない。
だが、実際の高齢者の数が桁違いに多いことと、
日本にはない複雑な要因があることを考慮すると、
中国での高齢化のインパクトが
いかに凄まじいかが容易に想像できる。
中国の高齢化を推し進める「二つの要因」
中国の高齢化を推し進める要因は二つある。
一つは、先進国同様、寿命が延びていることだ。
1970年に61.7歳だった平均寿命は、
2002年には71歳を超えた。
政府が市場原理の導入を始めた1978年には、
国民一人当たりの年間所得は わずか190ドルだった。
だが、2003年には1000ドルを超えた。
この25年間で5倍以上になっている。
経済が成長し、生活水準が向上すると、
平均寿命が延びるのは、世界共通だ。
もう一つの要因は「少子化」だ。
少子化の理由は、有名な「一人っ子政策」である。
このおかげで女性一人当りの出生率は1.7人と
日本の1.4人に近づいている。
日本の少子化が、経済成熟に伴う
女性の価値観の変化で起きているのに対し、
中国の少子化は、政府の人口抑制政策で
起きている点が異なる。
だが、少子化が高齢化を加速している点で、
両国は共通する。
また、中国の平均的な退職年齢は、
男性が60歳、女性が55歳である。
女性の退職年齢がはっきりしているのが、
共産主義国らしいが、男性の退職年齢は
日本とほぼ同じといえる。
中国の高齢化における日本との違い
このように中国の高齢化において
日本との共通点も多い一方、相違点も多い。
第一に、高齢者の数が桁違いに多いこと。
これはすでに述べたとおりである。
第二に、経済成長と高齢化とが
同時に進展していること。
日本や他の先進国では、経済成長が進展してから
高齢化が進展したのと対照的である。
将来はインドなど人口が多く、
経済成長が進む国で似た傾向が見られるだろう。
これが複雑なシニア市場を
さらに複雑化する要因となる一方、
先進国とは異なるアプローチが可能な
柔軟性をも持っているといえる。
現に、アメリカの高齢者居住コミュニティとして
有名なサンシティを
北京郊外に建設する話が進んでいる。
アメリカでは時代遅れの居住コミュニティも
中国では新鮮なサービスに見えるようだ。
今後の中国の行方に影響を及ぼす重要な要因
一方、今後の中国の高齢化の行方を考える上で
重要な要因がいくつかある。
その一つは、多民族国家であることだ。
国民の91.9%が漢民族だが、
残りはウイグル、チベット、モンゴルなど
10種類以上の民族からなる。
このため、民族紛争も絶えない。
高齢者の価値観、生活スタイルも多様となる。
これを考慮する必要があるだろう。
もう一つは、国家統治が共産主義でありながら、
経済には市場原理を活用する
混合経済を進めていることだ。
これが78年以降の急成長の理由だが、
一方で都市部と農村部との所得格差の拡大、
環境汚染の拡大など
急激な経済成長に伴うひずみも増えている。
以上、挙げた以外にも、
まだいくつか考慮すべき要因があるだろう。
高齢化は確実に世界のあらゆる国の共通の課題となる
明らかなのは、高齢化は、確実に、
世界のあらゆる国の共通の課題となる。
その解決策は、その国固有のものもあるが、
どの国にも適応できる普遍的なものも多いはずだ。
高齢化率世界一の日本が、
今後直面する課題は多い。
年金、医療費、介護、雇用など
解決すべき課題は山積みである。
だが、これらの困難のなかで揉まれ、
蓄積される課題解決のノウハウと
そこから生まれる新たな事業アイデアは、
将来の大きな知的財産となるだろう。
それは、いずれ日本と同様に高齢社会に突入する
他の国々から羨望の眼差しで見られることになる。
だから、いまこそ、率先して
これらの課題に取り組むべきなのだ。
日本におけるシニアビジネスの先駆者である筆者が、過去14年にわたって実際に数多くの案件に直接関わり、悪戦苦闘しながら積み上げてきた多くの実践体験のエッセンス。シニアシフトに取り組む際に留意すべき点や事業成功のための要点を余すところなく伝えるビジネス・パーソンの必読書。韓国・台湾でも出版。