香港で出会った2人の女性社会起業家から感じたこと

スマートシニア・ビジネスレビュー 2015年7月23日 Vol.212

IMG_3211-2先日、香港での国際シンポジウムで嬉しい出会いがありました。

2日目のパネルディスカッションで話した後、拙著「シニアシフトの衝撃」の中国語版(中国語名:銀髪商機)を手にした女性が私に近寄ってきて、サインを依頼されました。

依頼してきた40代の女性は「香港で要介護者向けのタクシー会社を経営している」とのこと。その時は「ああ、日本にある介護タクシーのようなものが香港にもあるんだ」程度にしか思いませんでした。ところが、彼女が香港で有名な女性社会起業家、ドリス・ランさんだということを後で知りました。

彼女との出会いの後に、今度は1日目の私の講演を聴いてくれたという60代から70代の女性グループがやってきました。このグループは、今回のシンポジウムに参加するためにシンガポールから香港までやってきた人たちで、リーダーのヘレン・リムさんは、年配者を中心に旅を楽しむための協同組合を起業して活動していることを知りました。

IMG_3220-2この二人にはいくつか共通点があります。一つは、二人とも社会の高齢化に伴う身近な「不」の解消がきっかけで起業していること。私は常々「シニアビジネスの基本は、不の解消」と言い続けていますが、これは世界普遍の真理だと再確認しました。

ドリスさんの場合は、母親が脳卒中で倒れ、車いす生活を余儀なくされるようになったのがきっかけ。既存のサービス、特に移動手段がとても不便に感じたそうです。

それまで香港には日本の介護タクシーのような車いすごと車両に載せて移動できる手段がなく、母親を医者や買い物に連れていく時には車いすから母親を抱き上げて車両のなかに移動し、目的地に着いたら、抱き上げて車いすに移動させる作業の繰り返し。

自分が当事者になって初めてその大変さを実感し、既存の不便なサービスを何とかしたいと思い、起業して自分でやることを決めたのです。

一方、ヘレンさんの場合は、旅行会社が提供する既存のパッケージ旅行の中身が、自分たちのような年齢層に合わないことへの不満が起業のきっかけでした。例えば、ヨーロッパツアーでは、14日間で10か国の観光地を周るという忙しいものが多く、もっと滞在そのものを楽しむ、文化を理解するようなコト消費型の旅を求めている彼女たちには耐えられないものでした。

二つ目は、社会の課題を行政による補助金投入ではなく、民間企業のビジネスで解決するアプローチを取っていること。彼らはこれを「ソーシャル・エンタープライズ(社会企業)」と呼んでいます。

香港もシンガポールも日本と異なり、公的介護保険はありません。したがって、介護にかかわるサービスでも全て利用者負担が前提です。このため、サービス品質に対する要求も高くなり、提供側は多くの工夫と努力が必要となります。

日本では「この商品・サービスが公的介護保険の適用になってくれないかなあ」という保険報酬依存の発想をしがちな面があります。しかし、日本、ドイツ、オランダ(一部韓国)以外の世界のほとんどの国では、そもそも公的介護保険制度がないので、報酬依存という発想がありません

ここで取り上げた二つの事例は、実は日本では「介護タクシー」あるいは「ゆったり旅」「バリアフリーの旅」という形ですでに存在するものです。しかし、こうしたサービスには、何らかの形で介護保険に依存する部分があります。

今年4月の介護保険制度の大改定以来、介護保険報酬に依存する事業の先行きに厳しさが増しています。

今後成長が見込まれるアジアなど海外市場を見据えるなら、介護保険報酬に依存しないビジネスの形で社会の高齢化に伴う課題を解決する「ソーシャルビジネス」によるアプローチがますます重要になっていく。

そのことをアジアの起業家との出会いで改めて感じました。

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