ダイシン百貨店に200種類の漬物がある理由

スマートシニア・ビジネスレビュー 2012423日 Vol.176

スーパーの漬物売り場にその地域在住シニアのニーズが反映

先週ある外資系企業の研究会お話しする機会がありました。テーマは、世界規模で進む高齢化にどう対応していくかで、世界各国から担当者が集まっていました。

私がお話しした前日に東京・大森にあるダイシン百貨店を見学されたとのこと。担当者の皆さんに「漬物売り場は見ましたか?」と尋ねたところ、どなたも「見なかった」との返事でした。

 私の想像では、仮に漬物売り場を見たとしても、200種類もの漬物があることの意味は、外国人の方にはよく分からなかったものと思います。

かつて私は拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」で、当時福岡市博多区にあった年配層に人気の小型スーパーのことを次のとおり書きました。

(1)少量で買え、値段も安い

各種惣菜や調味料などが、自分の必要な量だけ買えます。惣菜・弁当店の「オリジン弁当」は、惣菜のバラ売りで有名ですが、このスーパーでは、調味料まで小分けで買え、卵なども10個パックではなく、バラで買えるようになっているのが特徴です。

高齢になると、一般に基礎代謝量が減ることから、食事の量が減ってきます。さらに、人口動態的に高齢世代では、女性の一人暮らしが多くなります。ところが、大型スーパーやコンビニの弁当や惣菜は量が多く、こうした女性たちには量が多すぎて余ってしまうことが多いのです。

(2)談話できる休憩コーナーがある

スーパーの一角にのれんの下がった休憩コーナーがあり、買い物の途中あるいは買い物後にひと休みでき、他の来店客と歓談できます。百貨店では、通路や廊下に休憩用の椅子が置いてあり、年配者がよく利用しています。

しかし、単に椅子が並べてあるだけのことが多く、来店者同士で歓談するようなケースは少ないようです。ところが、このスーパーの場合、この歓談コーナーでの来店客との雑談・世間話が、店の品揃えのヒントになっているのです。

(3)顧客からリクエストのあった商品は必ず取り寄せる

たとえば、有名な干し柿が欲しいというリクエストがあると、たとえ一袋でも入荷します。興味深いのは、注文した顧客が口コミで他の客に勧めるため、最終的にヒット商品になることです。

また、スーパーに置いてある肉は、豚ロース、鶏胸肉などわずか四種類しかありません。その代わりに、漬物は塩分控えめのものや、やわらかいものなど50種類以上を置いています。

見「非合理」に見えることも地道にやり続けると「合理的」になる

拙著は6年以上前に執筆したものですが、こうしてみると、当時の最先端の動きが、今ようやく、広く世の中に実現されつつあることがわかります。

ダイシン百貨店に200種類以上の漬物があるのは主要顧客がシニア層だからです。そして、シニア層には漬物好きな人が多く、しかも人によって多種多様なものを求めるからです。

ダイシン百貨店は、顧客からリクエストのあった商品は、たとえ滅多に出ない商品でも必ず取り寄せ、それを地道に継続しています。200種類以上の漬物の品ぞろえは、こうした店の姿勢を象徴しているのです。

 一方、こうしたやり方は手間がかかり効率が悪く見えます。しかし、顧客にとっては自分の欲しいものを「たとえ一品でも注文すれば取り寄せてくれる」というのは嬉しいものです。

こうした姿勢の店に対しては、信頼感が格段に上がりますすると、来店頻度も上がり「ついで買い」の機会も増えるのです。

見「非合理」に見えることも、きめ細かく地道にやり続けると合理的な結果が得られる。

シニア顧客の気持ちをつかむ秘訣の一つは、経済原理では非合理に見えても、その先を見据えて、やり続けようとする「器の大きさ」なのだと改めて感じます。