家庭用血圧計の例

スマートシニア・ビジネスレビュー 2025年9月2日 Vol.248

新たな高血圧治療ガイドラインの主な改訂点

日本高血圧学会は6年ぶりに改訂した2025年版の治療のガイドラインを8月29日に発行しました。主な改訂点は次の通りです。

1.「治療の目標値」が全ての年齢で統一されたこと
2.ガイドラインの名称に「管理」が追加され、日常生活での血圧測定や生活習慣の改善に力点が置かれたこと

    1については、具体的には次の通りに改訂されています。

    旧:

    75歳以上 140/90mmHg未満(診察室)、135/85mmHg未満(家庭)
    75歳未満 130/80mmHg未満(診察室)、125/75mmHg未満(家庭)

    新:

    全年齢   130/80mmHg未満(診察室)、125/75mmHg未満(家庭)

    今回の改訂で75歳以上の人を対象とした目標値が少し厳しくなりました。

    旧ガイドラインでは、75歳以上については血圧を下げることで腎障害などが起こる恐れもあるとして、最高血圧を140未満、最低血圧を90未満としていました。

    しかし、国内外の最新の研究で、高齢であっても血圧を下げることで脳卒中などの予防につながるとのエビデンスが報告されていることから今回、75歳以上についても引き下げを決めたとのことです

    ちなみに、家庭での数値が低めなのは、病院等の診察室での計測値が緊張などで高めに出る(白衣高血圧と言います)ためです。

    2については、次の通り、名称が変更になっています。

    旧:高血圧治療ガイドライン

    新:高血圧管理・治療ガイドライン

    名称に「管理」が追加されたことの意味は、日常生活での血圧測定や生活習慣の改善といった「自己管理」の重要性を強調しているためです。

    今回のガイドラインでは「家庭血圧の重要性」がさらに強調され、家庭での測定習慣が治療の第一歩とされています。

    改めて、なぜ、血圧管理が重要なのか?

    結論から言えば、血圧管理は脳卒中予防の最重要のアクションの一つだからです。

    厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、要介護になった原因の1位が認知症、2位が脳血管疾患(脳卒中)、3位が骨折・転倒です。ただし、認知症の原因の約30%は脳卒中ですので、脳卒中が要介護になる原因の最上位といってよいでしょう。

    脳卒中の病型割合は、脳梗塞72%、脳出血19%、くも膜下出血5%で、脳梗塞が7割を超えています。

    脳梗塞には、主にアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症の3つの病型があり、発症頻度はそれぞれ33%、31%、28%です(これら以外の脳梗塞が8%)。アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞は、脳の血管の動脈硬化によって引き起こされます。

    脳出血は、脳内の血管が破れて出血する病気です。くも膜下出血は脳動脈瘤という血管のふくらみが破裂することによって起こります。

    高血圧が続くと血管の壁が硬くなり弾力性を失い、動脈硬化が進みやすくなります。また、脳出血とくも膜下出血は、高血圧が直接的な原因となります。

    日常生活での自分の血圧数値の範囲と一定期間の数値の傾向を把握できれば、脳卒中リスクの大きい高血圧を防ぐための対策が取りやすくなります。

    つまり、血圧管理は脳卒中予防の極めて重要な鍵なのです。

    家庭血圧の測定で気を付けるべきこと

    私は50代半ばに人間ドックを受けた際、それまで正常だった血圧が初めて高めであることに気づき、軽いショックを受けました(苦笑)。以来、家庭用の血圧計で毎日血圧測定を行うのが日課になっています。

    したがって、今回のガイドライン改訂のかなり以前から家庭血圧測定を実践していることになります。また、スマート・エイジングに関する講演でも、必ず血圧測定の大切さお話ししています。

    長年の家庭血圧測定の経験に基づき、気を付けるべきことを次に述べます。

    1.血圧計は「上腕式(カフ式)」のものにする

      家庭用の血圧計には、「上腕式(カフ式)」「上腕式(アームイン式)」「手首式」「腕時計式」の4種類があります。お勧めは「上腕式(カフ式)」です。

      「手首式」「上腕式(アームイン式)」は計測値がばらつきやすいのでお勧めしません。また、腕時計式のものでは、オムロン製の医療機器認証を取得しているものを除いて測定原理に正確性が欠けるためやめた方がよいでしょう。

      参考までに、25年2月13日発売のHUAWEI WATCH D2 ウェアラブル血圧計も、医療機器認証を取得しています。私は使ったことがないので、どの程度計測精度があるのか不明です。

      2.血圧計はブルートゥースでスマホのアプリにデータを取り込めるものにする

        以前は内科に行くと血圧計測値を記入する冊子をタダで渡されたものです。しかし、これを使うやり方だと、計測毎に自分で記入する必要があります。

        また、血圧計測値データを保存できず、傾向をグラフで確認することもできません。これだと途中で計測習慣が継続できず、挫折しやすくなります。

        血圧計のなかには、ブルートゥースによるスマホ連携機能がないものが意外に多いので、購入時にチェックしましょう。

        3.測定は、最低朝1回、起床後1時間以内に行う

        ガイドラインでは、起床時と就寝前の1日2回計測を推奨しています。しかし、忙しい場合は、少なくとも起床時の計測だけは欠かさず行うことをお勧めします。

        脳卒中の発症は、血圧が高くなる起床後数時間以内(特に6〜10時)に最も多いことが国内外の多くの研究で示されています。

        この時間帯には、様々な身体の生理的変化が起こることと関係しています。このため、起床時の血圧管理を重視する必要があります。

        4.測定時は、カフの位置(高さ)を心臓の高さに揃える

        位置を揃えないと、計測誤差が生じるからです。机上での継続だと、身長・体格によってカフの高さと心臓の高さが一致しないことがあるので、何らかの方法で高さを揃えるようにしましょう。

        その他、気になったこと

        ガイドラインの序文に「このガイドラインが幅広く利用され,国民の血圧管理状況が改善されることを強く祈念しています」と書かれています。

        にも関わらず、このガイドラインを詳細に読むには、定価4,180円(税込)という高価な書籍を購入する必要があり、一般個人には敷居が高くなっています。

        通常、こうした健康系のガイドラインは厚生労働省などのウェブサイトで無償で公開されることが多いのですが、今回のものはそのような形態になっていません。

        せめて、ガイドラインの要点程度は、プレスリリースで公開していただくことを希望します。

        日本高血圧学会による「高血圧管理・治療ガイドライン2025」の内容紹介