スマートシニア・ビジネスレビュー 2012年7月31日 Vol.179
特にシニアをターゲットとした
利用促進競争が目につきます。
しかし、現状のネットスーパーは、シニア顧客、
とりわけパソコンなどのIT機器を利用しない人にとっては、
まだ敷居が高いようです。
シニア顧客がネットスーパーを利用したい理由としては、
① 足腰に不具合があり、長い距離を歩くのが難しいため、
② 水や米など重いものを運ぶのがおっくうなため、
③ 配偶者など家族の介護で、外出機会が限られるため、
などが想定されます。
しかし、こうした潜在顧客がネットスーパーの利用者にならないのは、
次のいずれかの「壁」のためです。
壁1:ネットスーパーの存在を知らない
壁2:パソコンなどのIT機器を利用していない
壁3:利用に興味があるが、自分一人では利用できないと思っている
壁4:パソコン、ルーターなどの費用、回線接続料などが高いと思っている
これらは、ネットスーパー利用の前段階での「壁」ですが、
パソコンなどのIT機器をすでに利用している人にとっては、
むしろ次が利用を妨げる「壁」となります。
壁5:商品配送料が高い
壁6:商品が魅力的でなく、買う気にならない
(他店に比べて価格が高い、品質が劣る、ロットが大きすぎる、など)
壁1から4は、「ITが苦手な人」にとっての壁であり、
壁5、6は「スーパーとしての質」の壁であると言えます。
この「ITが苦手な人」にとっての壁を
乗り越える試みがいくつか登場しています。
そのなかで興味深いのは、大阪の日本おつかいサービスが始めた
「おつかい倶楽部」というネットスーパー事業です。
無料でレンタルするというものです。
自宅に無線LANの環境が必要ですが、
これがない人には月150円でルーターも貸し出します。
この仕組みが優れているのは、
何と言ってもiPadを無料でレンタルする点です。
現在のタブレットブームは、
iPadのおかげといってよいでしょう。
画面が大きく、見やすく、美しく、
指で画面をタップするだけで利用できるiPadは、
ITが苦手なシニアにもやさしいIT機器と言えましょう。
ただし、無料でレンタルできるのには理由があります。
指定のネットスーパー(「さんきん」という食品スーパー)で
月1万円以上購入することが必要です。
月1万円以上購入という条件は、2人以上の世帯の場合、ひと月の食費を想定すればそれほど高額ではないでしょう。
一方、一人暮らしの人にとっては、少し敷居が高いかもしれません。
また、利用のためには専用のアプリを使う必要があります。
この仕組みによって、利用者は特価品などの
優待購入機会を得られるようになっています。
一方、この仕組みは利用者の個人情報を
店舗側で管理できることを意味します。
店側から見れば「顧客囲い込み」の仕組みとなっているので、
これが嫌な利用者も少なからず存在するでしょう。
さらに、利用できるスーパーは「さんきん」だけという制約もあります。
ここが提供する商品の価格と品質に満足できない場合は、
利用のモチベーションが下がる可能性もあります。
このようにいくつかのデメリットがあるとはいえ、
何らかの理由で買い物が困難なシニアにとっては
有用なサービスであることに間違いはありません。
こうしたシニアの「不(不安・不満・不便)」を解消する用途開発こそが、
シニアビジネスの深化を促すものとして、
さらなる改善を期待したいところです。
参考:「囲い込む」という発想を捨てよ - 「囲い込み」から「駆込み寺」へ