スマートシニア・ビジネスレビュー 2024年2月5日 Vol.240
20年以上前から日本はエイジテックの先進国だった
2月3日放送のNHKサタデーウォッチ9でエイジテックが特集され、私の次のコメントが紹介されました。
- 日本では世界に先駆けて高齢者の課題を解決する技術が生み出されてきた
- AIの進化背景に今後も市場の拡大期待される
本稿ではまず1について、番組では紹介されていない内容をお伝えします。
エイジテック(Age-tech)がアメリカ発の言葉なので、さぞアメリカが進んでいるように思う方も多いようですが、実はそうではありません。日本が「エイジテック先進国」なのです。
2004年頃より、欧米の団体から私への講演依頼が増えてきました。世界最大の高齢者NPO AARP、ASA(American Society of Aging)、スイスの世界エイジング・世代会議などに頻繁に招待されるようになりました。
こうした機会に、私は必ず日本の取り組みを紹介してきましたが、その際に聴衆からの反響が大きかったのが「技術を活用した高齢者向け製品・サービス」でした。今でいうエイジテックです。
らくらくホンは世界初のエイジフレンドリー(高齢者にやさしい)携帯電話
例えば、NTTドコモと富士通による「らくらくホン」は、世界初の「エイジフレンドリー(高齢者にやさしい)携帯電話」。当時これを紹介すると、聴衆全員が「お~」と驚きの声を上げたものです。
らくらくホンの登場以降、欧米でも似たような携帯電話が登場しましたが、どれも大して売れず、しばらくして市場から消えましたた。
一方、らくらくホンは、スマホが登場するまでは常に携帯電話の毎月の売れ行き上位にランクしていたベストセラーです。(私も途中から新機種開発のお手伝いをしました)
シニア向けの携帯電話でビジネスとしても大成功したのは、らくらくホンだけです。
象印の「みまもりほっとライン」は電気ポットの液面の変化で利用者である高齢者の異変をメールで知らせる見守りの仕組みで、これも当時大変驚かれました。
20年前に初めて訪れたアメリカ・ボストンのビーコンヒル地区で、高齢者居住者に「階段を昇降できる車イスが欲しい。アメリカにはないが日本にはあると聞いた。何とかならないか」と尋ねられ、当時私は「日本の高齢者向け商品は世界中に市場がある」と思ったものでした。
なぜ、日本は技術を活用した高齢者向け製品を世界に先駆けて生み出してきたのか?
なぜ、日本は技術を活用した高齢者向け製品・サービスを世界に先駆けて生み出してきたのか?最大の理由は、日本の高齢化が世界のどこよりも進んでいて、需要があったからです。
高齢化率で見ると、日本とアメリカとは1990年時点で12.1%とほぼ同じでした。ところが、その後日本の高齢化率は急上昇し、2010年に23%と世界一になったのに対し、アメリカは13%とほとんど増えていません。
高齢者向け商品・サービスの需要は、高齢化率と一人当たりGDPの関数となります。一人当たりGDPが一定水準を超える、つまり生活水準がそれなりのレベルに達すると、高齢化率が上昇すると高齢者向け市場の需要が大きくなります。
高齢化率で世界一の日本では高齢化の課題が世界のどこよりも早く顕在化します。これは裏返せば、シニア分野でのビジネスチャンスが世界のどこよりも早く顕在化することを意味します。
だから、常に世界に先駆けて商品化でき、いち早く市場に投入できる優位性があったのです。
また、シニア市場とは多様な価値観を持った人たちが形成する「多様なミクロ市場の集合体」です。この「多様性市場」には、きめ細かな対応力が求められますが、日本の高度な集積化技術と、日本人の細やかな情緒感覚がこの対応力の源泉となります。
このように日本は、シニアビジネス分野で他国に対して優位に立てる素地を十分に持っているのです。これらのことは、2012年に上梓した拙著「シニアシフトの衝撃」で述べた通りです。日本が「エイジテック先進国」である理由はこれに他なりません。
一方、日本以外の国でも高齢化の進展に伴い、エイジテックへの取り組みが進んでいます。エイジテックという言葉はアメリカ発のものですが、周回遅れのアメリカが本気を出せば、今後かなりの競合になるでしょう。
2月3日NHKサタデーウォッチ9を観る(配信期限 :2/10(土) 午後10:00 まで、NHKプラスへの登録が必要です)
最新のビジネストレンドを紹介する「bizトレ」のテーマはエイジテック。どのような例があり、どんな価値があるのかが紹介されます。
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