解脱4月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第16回
近年相続トラブルが増えています。しかし、親が遺言書を遺すことで相続トラブルをある程度予防できます。親が遺言書を遺すことの第一のメリットは、親の死後に遺産分割協議を行なう必要が少なくなり、相続人同士での揉めごとが起こりにくくなることです。
こういうと「ウチの家族は仲がいいので、相続で揉めごとなど起こりっこない、大丈夫」、「遺言書って、金持ちの人の話でしょう? 私の親はどうせ大した財産を持っていないので、遺言書なんて必要ないよ」と思われる方も多いでしょう。しかし、現実には親の生前には円満だった家族や、親がそれほどお金持ちでない家族間でも遺言書が遺されていなかったために、揉めごとになることも少なくありません。
相続については、まず遺言書が優先します。遺言は、その人が死ぬと同時に、身分上あるいは財産上の事柄について、法的効力を発生させようとする意思表示だからです。ところが遺言書がないと、民法の定める「法定相続分」で相続することになります。
そして、遺産はいったん、相続人の「共同所有」となります。しかし、そのままでは各相続人単独の所有財産とはなりません。相続人が遺産を相続しても、それをいつまでも共有状態にしておくと、財産の管理・利用・処分のうえでさまざまな障害が生じます。
そこでこの共有状態を解消し、相続財産ごとにその取得者を決めるのが、「遺産分割」です。基本的には相続人同士が全員で話し合って、誰がどの財産をもらっていくかを決めることになっています。この話し合いを「遺産分割協議」と言います。
「遺産分割協議」が揉めるきっかけになる
このように、遺言書がないと残された親族間での「遺産分割協議書」の作成が必要となります。また、遺言書があっても遺産分割方法についての指定がない場合は遺産分割協議が必要です。しかし、これが揉めるきっかけになるのです。後で詳細を述べますが、遺産分割協議書には「法定相続人」全員分の実印と印鑑登録証明書が必要です。このため、作成する遺産分割協議書には法定相続人全員が合意する必要があります。
ところが、これがなかなか容易ではありません。特に、相続人同士の家族関係が複雑だと大変です。これまでほとんど顔を合わせたことのないような親族が突然現れてきたうえ、そうした人々と意見がぶつかり、協議が難航し、時間がかかります。
また、土地・建物などの不動産以外に財産がない場合に特に揉めやすくなります。なぜなら、遺言書がないと法定相続分どおりに分割しなければなりませんが、実際には不動産は簡単に分割できないためです。
相続争いはお金持ちだけの問題ではない
さらに、財産がない人ほど争う傾向があり、こうした人は、二、三〇〇万円の相続で争うこともあります。このように相続争いは、お金持ち家族だけの問題ではありません。
近年こうした揉めごとが増えているのは、経済的な理由からです。四〇代や五〇代になって失業や離婚など若い頃には自分が思ってもみなかった状況になった人、老後は年金での円満生活を予想していたのが当てにできなくなった人……こういった人が増えているのです。こうした人は、いまさら新たな収入源も当てにできず、頼るのは親の財産ということになります。
遺産分割協議で、相続人の間で主張が対立したまま合意できないと家庭裁判所での調停や審判にまで発展します。こうなると、解決までに長い時間がかかるだけでなく、親族間の人間関係にしこりが残る場合もあります。
このように、親の死後の親族間のトラブル予防の面から遺言書は不可欠と言えましょう。