任意後見制度を利用する①

解脱7月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第19回

解脱会_7月号_掲載任意後見契約とは何か?

任意後見契約とは、認知症などで判断能力が不十分になった本人に代わって、あらかじめ本人が選んだ「後見人(任意後見人)」に財産の管理や介護の手配などの判断を伴う行為を委任する契約です。2000年4月に介護保険制度と同時にスタートした「成年後見制度」の一つである「任意後見制度」に基づく契約です。

成年後見制度は、裁判所の手続きにより後見人等を選任してもらう「法定後見制度」と、当事者間の契約によって後見人を選ぶ「任意後見制度」に分かれます。

法定後見制度は、判断能力がすでに失われたか、または不十分な状態になり、自分で後見人等を選ぶことが困難になった場合に利用されるものです。これに対して、任意後見制度は、まだ判断能力が正常である人、または衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が利用する制度です。

任意後見契約書は、「任意後見契約に関する法律」により、公正証書で必ず作成する決まりになっています。

なぜ、成年後見制度が必要なのか?

高齢期になると認知症を発症する確率が上がります。認知症が発症し、進行すると、自分の行為を認知する能力が低下し、財布や預金通帳の保管場所を忘れたり、何度も何度も預金を下ろしたりというようなことが起こるようになります。

こうした状態になると、悪徳業者に高額な着物や羽毛布団を売りつけられたり、不要なシロアリ駆除やリフォーム工事への申し込みをさせられたり、振り込め詐欺に騙されたりして、大切な老後の生活資金を失ってしまう危険が大きくなります。

一方、認知症が進行した高齢者には、介護保険を使うことを拒み、長期間風呂に入らなかったり、部屋中がゴミの山になっていたりする人も見られます。もちろん、本人はそれを不快に思っていません。というより、自分の行為が自身で認知できなくなっているのです。

このように認知能力が低下すると、自分で財産管理ができなくなってしまうだけでなく、自分がどんな介護を受けて、どんな生活をするのかを判断することもできなくなってしまいます。こうした状態になった人の財産や人権を守るために整備されたのが成年後見制度なのです。

後見人に頼めること、頼めないこと

「任意後見契約に関する法律」によれば、任意後見人に頼めるのは、依頼人本人である委任者の「財産管理」と「介護や生活面の手配」です。具体的な委任業務内容は、任意後見契約書の「代理権目録」に記載します。

一方、任意後見人に頼めないのは、(1)委任者への介護行為、(2)保証人の引き受け、(3)委任者への医療行為の同意、とされています。(1)については、任意後見人は、介護の手配や契約を結ぶ義務はありますが、自ら委任者の介護を担う義務はありません。

任意後見契約には、(1)移行型、(2)将来型、(3)即効型、の三種類がありますが、(1)の「移行型」が望ましいです。これは、別途詳細を説明する「財産管理等委任契約」とセットで任意後見契約を結ぶ方法です。

任意後見人契約書の作成は、前述のとおり公正証書で行ないます。契約を結ぶときの費用は、公証役場に払う費用を含めて通常2万5千円から3万円程度かかります。また、契約書の作成を弁護士などの専門家に依頼すると、その分別途費用がかかります。任意後見人への報酬は、契約が発効になってから発生します。その金額は、専門家へ依頼する場合、月額3万円から5万円程度が最も多いようです。

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