解脱6月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第18回
親による周到な公正証書遺言が遺されても、親の死後に何らかのトラブルが起こる可能性はあります。その理由は、相続に関わるトラブルの原因の多くは、その背後にある「人間関係のトラブル」だからです。
「人間関係のトラブル」を予防するには、人間関係をよくするしかありません。核家族化が進展した現代は、何もしないと家族同士が疎遠になりがちです。最低、年に一度、「家族会議」を開催することをお勧めします。
家族会議と言っても、最初はそんなに大仰に構える必要はありません。せっかく家族全員が揃うのですから、食事や宴会をする合間に、少しだけ雑談をするところから始めればよいと思います。
実家の近くにどんな老人ホームや介護施設があるのか、認知症や転倒・骨折を予防するにはどうするのがよいのか、などの話から始めて、高齢期になるといろいろな問題が発生しやすくなることを家族全員で共有し、考える機会をつくるのです。
そして、家族会議以上に大事なことは、家族会議を通じて、日頃疎遠な親、兄弟姉妹とじっくりと話し合い、お互いの立場や状況を知って、理解を深め合う機会を得ることです。
揉めごとを減らすこと自体が「双方の利益」
相続トラブルを予防するための方法について、いろいろなお話をしてきました。しかしそれでも、互いの主張が相容れず、意見がぶつかり、揉めることもあるでしょう。そのような場合、もう一度思い出していただきたいことがあります。それは、「家族や親族である相続人同士で争っても、メリットは少ない」ということです。
家族や親族である相続人同士は相続における当事者同士ですが、本来「敵」ではないはずです。双方が自分の権利だけを主張して、自分だけの利益を追求しようとするから揉めごとになるのです。そうではなく、揉めごとを減らすこと自体が「双方の利益」になると考えるべきです。
遺産というのは、そもそも親の善意により親から財産をもらえることであって、もらえるだけでもありがたいと思うべきです(債務しかない場合は別ですが)。だから、もらう方が、ああだ、こうだと注文をつけることがそもそもおかしいと考えます。
「互譲互助」の精神を取り戻せ
私は、相続トラブルを根本的になくすには、かつて多くの日本人が持っていた「互譲互助」の精神を取り戻すしかないと思っています。この言葉は、私が縁あって社会人として最初のスタートを切った出光興産の創業者、出光佐三がよく語っていた言葉です。互譲互助は、「お互いが譲り合い、お互いが助け合う」という意味ですが、これは「お互いが助け合えば、お互いが譲り合う」という意味にも解釈できます。人は誰かに助けてもらったら、今度は相手を助けたくなるものです。
多くの場合、相続トラブルの根幹は、互いが相手のことよりも自分の権利だけを主張する、利己的な権利意識の高まりが原因で起きます。したがって、相手に一方的に助けを求めるのではなく、お互いがどうすれば助け合えるか、お互いが相手の困っていることに役に立てるかを探し合えば、自ずとお互いが譲り合うようになり、争いごとは減っていくのではないでしょうか。そして、この互譲互助の精神は、家族会議などを通じて、家族・親族間のコミュニケーションが改善し、深まることで育まれていくものだと私は思います。