解脱11月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第11回

解脱会_掲載_1511人生の後半生においては、経済格差と人生の豊かさとは必ずしも結びつかない。もちろん、ある程度のカネは必要だが、カネを多く持っていることが必ずしも後半生の豊かさに結びつかないのだ。

長年に渡り多くのシニア層と関わってきた筆者の経験から「豊かな老後」を過ごしている人には、「カネ以外に」次に上げるいくつかの条件を満足している場合が多い。

1.退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入がある

高齢になると一人暮らしが多くなる。何もやることがなく、家の中にこもっていると、何かにつけ後ろ向きになりがちである。これを防ぐには、仕事をして年金以外の収入を得るのが一番だ。第一に、生活に余裕が出る。旅行に行ったり、孫にプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなる。第二に、生活にリズムが出る。

徳島県上勝町で「葉っぱビジネス」に取り組んでいるお年寄りたちは、仕事がなかったときには、毎日やることがなく、家でだらだらテレビを見ていたり、ごろごろ寝ていたりする時間が長かったという。

しかし、葉っぱビジネスに参加するようになってからは、毎朝決まった時刻に起床し、その日の作業の段取りを考え、優先順位を決めてから取りかかるという「リズム」のある生活になった。上勝町には2200人あまりが住んでいるが、寝たきりの方はゼロ。高齢者医療費も徳島県内で最低水準とのことだ。高齢者も働き続けたほうが健康になることを証明している。

解脱会_表紙_15112.誰かに必要とされ、誰かの役に立っている

後半生になると孤独になりやすい。誰かに必要とされている、あるいは誰かの役に立っている人は幸せな老後を送っていると言える。たとえ収入は得られなくても、誰かの役に立つことで収入以上のものが得られることは多々あるからだ。

アメリカの心理学者コーエンは、自身が実施した数多くの退職者インタビューで「あなたにとって、人生の意味や目的を感じさせてくれるものは何ですか?」という質問に対して、あらゆる人が「他人の役に立つこと」と答える、と語っている。

コーエンの研究によれば、ボランティアなどの方法で社会に「恩返し」をした人たちは、退職後の生活に最も満足しているグループと重なっている。逆に退職後の生活で最も不満を抱える人たちは、現役時代に卓越したキャリアを築いていたのに、退職後にそれに匹敵する充実感を得られない人たちだそうだ。

3.実現したいことがあり、具体的な目標がある

福岡県のある特別養護老人ホームの入居者の女性が99歳で生まれて初めて英語の勉強を始めた。彼女は「最初はABCとOne、Two、Threeを習っただけで満足でした。そうしたら、だんだんと欲が出て、ほかの単語も習うようになりました。だって、一つ習ってわかるようになるとうれしいじゃないですか。今は動物や食べ物や乗り物とかの英単語を毎日10個ずつ覚えているんです」と話していた。

ここで注目したいのは、彼女が「100歳までに100の英単語を覚える」という具体的な目標を決めていたことだ。そうすることで、日々の生活に張りやリズムが出て、思考が前向きになり、潜在能力が発揮されやすくなるのだ。

だから、小さくてもよいので明確な目標を設定して何かに取り組むことが大切だ。具体的な目標を持つという行為そのものが重要なのである。そして、少しでも目標に向かって前進した、効果が出たということが自覚できると、さらに頑張ろうという気持ちが湧いてくるのである。

成功するシニアビジネスの教科書