相続トラブルを予防する② 親が70歳を過ぎたら「公正証書遺言」が不可欠

解脱5月号 連載 スマート・エイジングのすすめ 第17回

gedatsu1605遺言書は「公正証書遺言」で作成する

遺言書には、本人が全文を自筆で書く「自筆証書遺言」と公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」、遺言書の内容を密封して公証人も内容が確認できない「秘密証書遺言」の三種類があります。

それぞれ、メリット、デメリットがありますが、七〇歳を過ぎたあなたの親御さんには、公正証書遺言で作成してもらうことをお勧めします。その理由は、(1)原本が公証役場で保管され、誰かに盗まれたり、改ざんされたりする恐れがない、(2)家庭裁判所での検認が不要で遺言執行の手続きをとることができるからです。

公正証書遺言の作成費用は財産の評価額で変わります。また、証人も二人必要です。しかし、前述のメリットがあるため、公正証書遺言で作成することが望まれます。証人は、必要であれば公証役場が手配してくれます。この場合、報酬が必要となります。

遺言書がないと特に困る場合

遺言書がないと特に困る場合は次のとおりです。以下の七つの場合以外にも、特に子供がいない場合は、遺言書がないと困ることが多いようです。端的に言えば、家族関係が複雑で互いに疎遠だとトラブルが起きやすいと言えます。

(1)親と別居、兄弟姉妹が親と同居している
(2)親が小規模な事業を営んでいる
(3)親がアパート・マンションなどの賃貸物件を持っている
(4)親が親族以外の人にお世話になっている
(5)親が離婚・再婚している
(6)親に内縁の妻・夫がいる
(7)親に兄弟姉妹が多い

遺言書作成の際は、遺留分侵害に注意

遺産を相続できる人は民法に定められています。これを「法定相続人」といい、相続できる親族の範囲と順位が決められています。まず、親の戸籍上の配偶者は常に相続人になります。加えて、親の子供(つまり、あなた)や親の親(祖父母)などの血縁者も次の順序で相続する権利があります。遺言書がない場合、これらの法定相続人間で遺産分割協議を行なうことになります。

第一順位……親の子供(あなたやあなたの兄弟姉妹。養子や認知された子供も含む)。これを直系卑属と言います。
第二順位……親の父母(あなたの祖父母。養父母も含む)。親の父母が亡くなっている場合、親の祖父母。これを直系尊属と言います。
第三順位……親の兄弟姉妹(あなたの叔父母・伯父母)。親の兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子供(あなたのいとこ)。半血兄弟を含む。これを傍系血族と言います。

一方、遺言書を作成する場合、特に注意したいのが「遺留分」を侵害しないようにすることです。遺留分とは法定相続人が最低限主張できる相続割合分のことです。遺留分は遺言者本人の「兄弟姉妹以外」の法定相続人にありますが、その割合は次のとおりです。

(1)相続人が直系尊属のみの場合……遺産の三分の一
(2)前記以外の場合……遺産の二分の一

遺留分の存在を知らない人が自筆で遺言書を書く場合、遺留分を侵害した遺言書を作成してしまうことがよくあります。たとえば、「内縁の妻に全財産を遺贈する」、「A市役所に全財産を寄贈する」などと書かれた遺言書の場合です。こうした遺言書に対して、相続人が遺留分を主張できる権利を「遺留分の減殺請求権」と言います。

遺言作成の際は、トラブルの原因となる遺留分侵害を起こさない記述にすることが重要です。そのためには、遺言書を作成する人がこうしたことをしっかりと認識し、理解しておくことが必要です。

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