読売オンライン 今を読む:文化 2013年9月6日
読売新聞編集委員の河合敦さんが拙著「シニアシフトの衝撃」第12章「進む大家族への回帰」をもとにしたコラムを執筆されました。以下に全文を転載します。
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新しい形の大家族 編集委員 河合敦
毎日、通勤で東京駅を利用している。勤め人で混み合う駅構内は夏休みシーズンの7~8月、帰省や観光地などに出かける旅行者も加わり混雑度が一層増した。
旅行者の多くは、親子連れや若者のグループ、カップルなど。だが、親、子、孫と3世代でのお出かけ姿も時折見かけた。おじいちゃんと小さな女の子、おばあちゃんとお兄ちゃんがそれぞれ手をつなぎ、後ろからお父さん、お母さんがついて行く。ほほ笑ましい光景だ。
「核家族」という言葉が定着して久しい。家族形態の一般的なイメージは、夫婦と子供、あるいは夫婦のみとなりつつある。代わりに「大家族」という言葉はあまり聞かれなくなった。特に、都市部の大家族は珍しい存在だろう。2010年国勢調査でも大家族を含む「核家族以外の世帯」は530万世帯と、2005年の594万世帯、2000年の634万世帯から大幅に減っている。
30分以内の距離で、つかず離れず
ただ、新しい大家族の形の登場を指摘する人もいる。シニアビジネスに詳しい村田アソシエイツ代表の村田裕之さんは、著書『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社)の中で、「ゆるやかな大家族」の出現を紹介している。ゆるやかな大家族とは、親子が同居せず、電車や車を使い、おおむね30分以内で行き来できる場所に居を構える形態だ。
同居していないので、お互いに気を遣ってストレスがたまる頻度は低い。ただ、親の体調が悪いときは子が世話をし、親は孫の面倒をみて食費や生活費の援助をするなど、必要な時は助け合う。なるほど、つかず離れずの関係は気兼ねがなく、現代の家族らしいかもしれない。
このゆるやかな大家族、村田さんは親、子、孫の当事者同士の居心地がよいだけでなく、新たな消費も生み出すと指摘する。同居に比べれば、お互いが顔を合わせる回数は減るが、その分、会った際はコミュニケーションの「密度」が高まる。それは、3世代での買い物、食事、旅行などにつながり、消費支出が促進されるというわけだ。東京駅で見かけた3世代家族の中にも、ゆるやかな大家族がいたかもしれない。
3世代向けの商品、サービス
そういえば、3世代向けの商品、サービスは既にお目見えしている。住宅メーカーの中には、30分以内で行き来できる地域内に「戸建て住宅+マンション」「戸建て住宅+賃貸住宅」などのような形で親世帯と子世帯が住むプランを提案しているところがある。旅行会社やテーマパークも3世代で楽しめる海外旅行や割引チケットなどを販売している。携帯電話各社もシニア向けスマートフォンを売り出し、家族間での利用にと勧めている。
経済的に余裕のある親世代がスポンサーとなり3世代向け商品、サービスを消費すれば、そのメリットは子や孫にも及ぶ。また、少子高齢化社会では、シニア世代の消費が景気全体に与える影響は大きい。
さらに、ゆるやかな大家族には物質面での充実のほか、もう一つ期待できそうだ。同居しなくても、ほどよい距離感や親密度がコミュニケーションの質を高めれば、家族同士の「絆」という無形のものも育んでくれるだろう。
(2013年9月6日 読売新聞)