ターゲットも機能も絞り込んで「不」を解消せよ

シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第183回 

多様性市場には多様なサービスを用意しない

私は2004年に上梓した拙著「シニアビジネス」「シニア市場とは多様性市場」と断言して以来、このことを主張し続けてきた。

ところが、これを聞いて「多様なシニア向けには多様なサービスを用意することが必要だ」と思い込み、あれもこれもとサービスを「てんこ盛り」にして商品の売りがぼけてしまう例が後を絶たない。

ターゲットも機能も絞り込むとうまくいく

シニア市場では、むしろターゲット客も商品機能も絞り込んだ方がうまくいく。最近の良い例がパソコン周辺機器メーカー、バッファローの「ラクレコ」だ。

この商品はCDの楽曲を、パソコンを経由せずに簡単にスマホに取り込んで再生できるものだ。21年6月の発売後、じわじわと人気を博して同社のヒット商品になっている。

従来CDからスマホへの楽曲取り込みは、パソコン経由でiTunesなどのアプリにCDのデータを取り込んだ後、パソコンとスマホのデータを同期させる必要があった。

パソコンを日常的に使う人には大した作業ではないが、パソコンを持っていない、あるいは操作が苦手の人にはハードルの高い作業だった。

ターゲットは多くのCDを持ちパソコンが苦手な50・60代

こういう人は実は50代後半から60代の主婦や退職者に多い。これらの人も外出先で音楽を聴く時にはスマホを使いたい。

YouTubeなら無料で聴けるが広告がうっとうしい。でも有料は嫌という人も多い。また、音楽サブスクだと最新楽曲や未解禁アーティストの楽曲が聴けないことも多い。

自分が若い頃に聴いた楽曲はサブスクにはないことも多く、仮にあっても料金が高額になることも多い。デジタルやIT機器に疎い主婦や退職者は、有料の音楽サブスクより手持ちのCDかレンタルCDをスマホに取り込む方が安上がりだと思っている。

一方、これらの人はCDからスマホへの楽曲取り込みを子供に頼むことが多いが、子供が忙しい時は面倒臭がられる。こうした背景から「CD楽曲を自分で簡単に取り込めたら・・・」という潜在ニーズがあったのだ。

取り込み作業は3つのステップでかなり簡単だ。ラクレコとスマホとの接続はWi-Fiでも可能のためスマホを充電しながら楽曲の取り込みもできる。

曲名やアーティスト名などのアルバム情報や歌詞もネットから自動取得され、従来手入力していた人には手間が省けて好評だ。

商品が登場すると潜在需要が顕在化する

ラクレコのような「ありそうでなかった」商品が出現すると想定外の需要が生まれる。例えば「カラオケの練習用に使っている」との声がシニア層から上がっている。コロナ禍でカラオケに行きづらい時の代替手段となっているのだ。

また、実店舗のCDショップから「CDと一緒に売りたい」との声もある。CDをあまり知らない世代にはスマホで使える便利な道具として訴求できるだろう。

筆者も含むCD世代は自宅に数多くのCDを持っている。ラクレコをきっかけに眠らせているCDをよみがえらせ、音楽を楽しむ生活を取り戻してほしい。そんな主張を感じさせる製品だ。

ラクレコは、ターゲット客を絞り込み、「不」の解消のための機能に絞り込むことで手頃な価格を実現したヒット商品の好例だ。