スマートシニア・ビジネスレビュー 2024年3月6日 Vol.241
健康づくりのための睡眠ガイド 2023は一見ありきたりだが、実は有用な資料
2月14日に厚労省から「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」が公表されています。このガイドは10年ぶりに改訂されたものです。
昨年11月に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が公表された時はネット上でトレンドになりました。しかし、睡眠ガイドではそうした動きになりませんでした。
理由としては、公表された要点(表)が、かなり“ありきたり”のため、注目度が低かったからと思われます。
ガイド自体にも記載の通り、睡眠時間や睡眠休養感は個人差が大きいため、提言が最大公約数的となり、身体活動・運動ガイドに比べて内容に具体性が欠けるように見えます。
しかし、10年前に制定された指針に比べると、睡眠に関する科学的知見を文献リストとともにまとめた参考情報がかなり充実しており、有用な資料になっています。
健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)と2014年の指針との2つの違い
今回公表の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」と10年前の「健康づくりのための睡眠指針2014」との大きな違いは次の2つです。
- 「高齢者」「成人」「こども」の3つの年代別に推奨事項をまとめたこと
- 光・温度・音等の環境因子、食生活・運動等の生活習慣、睡眠に影響を与える嗜好品との付き合い方に関する参考情報を付帯したこと
1については、こどもに対しては、小学生は1日9~12時間、中高生は8~10時間の睡眠時間を推奨しています。
成人は「働き盛り世代」とされ、 1日6時間以上を推奨。高齢者に対しては「寝床にいる時間を8時間未満にする」ことを推奨しています。
高齢者に対しては睡眠時間より「床上時間」重視を推奨
興味深いのは、高齢者に対しては睡眠時間より「床上時間(寝床にいる時間)」を重視せよと強調している点です。
これには科学的なエビデンスがあります。約6000 人について平均11年間追跡調査を行ったデータを使って、睡眠と寿命の関係について解析した論文が該当します。
この論文によれば、高齢者は床上時間が長いほど死亡リスクが高くなる傾向がみられ、特に8時間を超えると明確に死亡リスクが高くなったとのことです。
今回のガイドには、こうした科学的な知見が示され、その根拠となる学術論文も明記されているため、内容の確認や深堀が効率的にできるようになっています。
朝食は体内時計の調整に寄与し、睡眠休養感の低下と関連する
2については、良質な睡眠のために有用なことが、やはり科学的知見と合わせて解説されています。
例えば、しっかりと朝食を摂ることの有用性に関しては、①朝食が体内時計の調整に寄与すること、②1週間程度朝食を抜くと体内時計の後退に伴う寝つきの悪化を促し、睡眠不足を生じやすくなること、③朝食を抜くことが睡眠休養感の低下と関連すること、など最近の研究結果が紹介されています。
朝食習慣とウェルビーイングの関係性については、私が関与している吉野家、NeUとの共同調査研究でも明らかになっており、学術的なエビデンスが補強されていることがわかります。
「朝食頻度」が高いほど「幸せ度」が高い:吉野家・NeUとの共同調査
今回のガイドは「よく眠るための要素に関する学術的知見が整理」されているもの
今回のガイドは「こうやったら絶対よく眠れる指針」というものではなく、「よく眠るための要素に関する学術的知見が整理」されているものです。
冒頭に述べたように、睡眠時間や睡眠休養感は個人差が大きいため、「自分に最適な睡眠のための条件・方法を見つけるための学術的知見集」と位置付けて活用するのが、このガイドの有用な使い方だと思います。
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