9月10日 シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第90回
インターネットでアンケート調査する場合の留意点は三つある。第一にアナログ情報が欠落すること、第二に入力インターフェイスが障害になりやすいこと、第三に母集団にバイアスがかかりやすいことだ。
デジタルゆえに回答者のアナログ情報が欠落する
紙アンケートの場合、意外に情報価値が高いのが自由記入欄などにおける手書きのコメントだ。手書きコメントのよい点は、字の濃淡や記入の仕方、筆跡といった情報が含まれることだ。これらの情報から書き手がコメントを書いている時の心境や雰囲気が伝わってくる。だから、書いてある文字情報以上の情報が得られる。
これに対し、インターネットのアンケート回答には、こうしたアナログ情報は一切含まれない。私は講演やセミナーの講師に招かれた時に、受講者アンケートを見せていただくことがよくある。講師にとってこのようなアンケートで最も有用なのは、手書きコメントの部分だ。
実はこうした手書きコメントにこそ、受講者の本音が最も出やすく、受講者満足度が透けて見えるところなのだ。だから、手書きコメントのないアンケート調査は、その価値は3分の1以下といってもよい。
キーボード入力だと高齢者の回答率が下がる
数年前に比べて現在は、65歳以上のネットユーザーの割合はかなり増えた。ところが、65歳以上の人では、一般にキーボードでの入力より手書きを好む人の割合が依然として多い。
この理由は、一昔前に比べてかなり改善されたとはいえ、パソコンの使い勝手やキーボードでの入力インターフェイスが、まだまだ使いにくいことにある。このため、年配者では自由コメント欄での入力が面倒になり、それゆえ回答の確率が低下する傾向がある。
最近はアップルのSiriなど音声認識技術が以前より発達してきたので、キーボードによらずに入力できる選択肢は増えた。とはいえ、まだ入力作業がまどろっこしいため、使っている人は少数派にとどまっている。
調査会社の母集団はバイアスがかかりやすい
ネットアンケートを多用している調査会社では、回答者の属性を明らかにするために、あらかじめ会員プロファイルの登録を行っている。そして、調査のテーマごとに回答への参加を呼びかけ、回答者に一定の謝礼を支払うことで、母集団を確保するという手法が多いようだ。
ところが、こうした手法には、いくつかの面で母集団にバイアスがかかりやすくなる欠点がある。一つは、調査テーマの内容によって、母集団の数そのものが少なくなり、もはや統計学上の「大数の法則」を前提とした調査ではなくなることだ。
もう一つは、会員登録をしている人のなかには、回答に協力して謝礼をもらうことが動機となっている人が多いため、回答内容の信憑性が低下しやすいことだ。言い換えると、回答者が「調査慣れ」しており、回答する時に、「また、いつものアンケートか、適当に答えておけばいいや」という気持ちになりやすいことだ。
また、第二の理由で述べた通り、ネットアンケート調査の母集団には、キーボード入力やパソコン利用に抵抗感の少ない「ITに強めの人」が多い。これも母集団にバイアスがかかることを意味する。
すべての市場調査手法には適用限界がある
私はアンケート調査という方法論そのものを否定しているのではない。前号で述べた通り、現時点の事実関係の確認という面では、回答者が真実を記入する限り、信憑性は保証される。
問題なのは、調査を行う主催者が、ネットアンケート調査という手法に構造上の限界があることをきちんと認識したうえで、設計し、実行しているのかどうかなのだ。
実は、アンケート以外のグループインタビューやフォーカスグループなど、すべての市場調査手法には、それぞれの適用限界がある。こうしたことはプロのリサーチャーであれば十分理解していることだ。
だが、最近はネットアンケートしか知らない素人リサーチャーが増えており、これらの人たちが調査受託している場合は注意が必要だ。
参考文献:成功するシニアビジネスの教科書