スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年5月10日 Vol. 50
昨年、テレビ番組で話題を呼んだ
渡辺淳一の小説「エ・アロール」の舞台は、
東京・銀座の有料老人ホームだった。
これは架空の施設だったが、
昨今の都心の高層マンションラッシュからすれば、
近い将来、銀座界隈に本物の有料老人ホームが
出現する可能性は十分ある。
ただ、銀座のような都心に住んだことのない
高齢者にとって、銀座に住むということが
実際どのようなものなのか想像がつきにくいだろう。
そんな人には、山崎武也著「老後は銀座で」
(PHP研究所)が参考になるかもしれない。
ただし、著者もまえがきで断っているように、
都市部の質のよい賑やかな地に老後に住むことを、
「老後を銀座で」と象徴的に言っているだけで、
著者自身が銀座に住んでいるわけではない。
このため、銀座に実際に移り住む人は、
この本に書かれていない
「いくつかのこと」に遭遇することになるだろう。
それらは、いわゆる「華やかな銀座」のイメージとは、
大きくかけ離れたものである。
その一つは、「カラス」である。
夜明けから朝の7時過ぎの銀座の中心部には、
カラスの大群が押し寄せる。
なぜ、銀座に「カラス」なのか。
生ごみが多いためだ。
飲食店街である銀座は、
排出する生ごみの量も膨大である。
大半の店が夜中の3時過ぎ頃までに看板を下ろす。
その後の店の前は、大量の生ごみの袋となる。
カラスはこれを狙いにやって来るのである。
ゴミ収集車がやって来るのが朝7時から7時半頃。
収集車が銀座中の生ごみを集めると同時に、
カラスの大群もどこかへと姿を消す。
そして、翌日の早朝まで決して現れない。
だから、昼間や夜しか銀座に来たことがない人は、
この黒い「珍客」にお目にかかることはない。
二つ目は、「蚊」である。
特に夏場になると、多く出没する。
なぜ、銀座に「蚊」なのか。
水路が多いからである。
飲食店街の多いところには、
必ず下水道につながる水路がある。
だから、飲食店街の路地裏に一歩入ると、
そのような水路が沢山見られる。
この水路が、蚊の巣になっているのである。
蚊はドブ川のような濁った水を好む。
人間の飲食活動で排出される水は、
蚊にとっては絶好の住処となるようだ。
三つ目は、「猫」である。
それもペットショップにいるような猫ではなく、
昔からいるような野良猫である。
なぜ、銀座に「野良猫」なのか。
カラスが多いのと同様に、生ごみが多いためだ。
そして、自宅に猫を飼うような居住者が少ないため、
野良になっているのだろう。
これら以外にも、いわゆる「華やかな銀座」の
イメージに合わないものは、まだいくつかある。
だが、これらのカラスや蚊、野良猫は
紛れもなく銀座の一面である。
瀟洒なブティックやお洒落なレストラン群が
銀座のイメージを最も表すものと
われわれは一般に思い込んでいる。
だが、これらの「珍客」は、
われわれが忘れがちな人間社会の道理を
思い出させてくれる。
つまり、光があるものには、
必ず影があること。
そして、その光が明るく、眩しいほど、
その影は深く、濃いものとなること。
住処として銀座を選ぶなら、
このことを忘れない方が良いだろう。
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