スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年7月13日 Vol.156

senior-shopping高齢者にやさしい売り場づくりが注目されている。私のインタビューが掲載されている雑誌「販促会議8月号」での特集に加えて、7月10日の日経MJでも取り上げられていた。

厚生労働省が発表した2010年の国民生活基礎調査によれば、高齢者が一人でもいる世帯は2070万5千万世帯、全世帯の約4割に上る。

これだけ高齢者の割合が増えれば、あらゆるビジネスで「高齢者にやさしい」機能が求められるのは当然だ。だが、現状の大手スーパーマーケットでの取り組みは必ずしも十分とは思えない。

日経MJの記事では、従業員が専用のゴーグルや手袋を装着のうえ、「高齢者の疑似体験」をして、高齢者の視点を理解するという取り組みが紹介されていた。この擬似体験セットは、恐らくインスタントシニアという擬似体験セットと思われる。

以前、このビジネスレビューでも取り上げたように、インスタントシニアのメリットは若い人でも高齢者の身体的機能低下を自ら疑似体験できることだ。一方、デメリットは、「高齢者とはこんなもの」という先入観が形成されやすいことである。

ひとくちに高齢者と言っても、その価値観は非常に多様である。だから、こうした疑似体験装置だけで売り場における高齢者の視点を理解するのは無理がある。むしろ、来店する高齢者の生の声を店員が直接聞き届けることがより有効だ。

私の知る限り、日本の高齢者が好むスーパーマーケットの条件は、次のとおりである。

  1. 店の規模が歩いて買い物が可能な適当な広さであること。アメリカ型の大型店舗は、高齢者には広すぎて、買いたいものがどこにあるのかわからない。移動距離が長くなるのも苦痛だ。
  2. 自宅から歩いていける距離に立地している。徒歩12,3分以内で行ける所が限度。高齢者(特に女性)は自動車を運転しない人が多い。
  3. 食料品以外の日用品も一通り手に入ること。そこに行けばたいていのものが間に合う、というのが高齢者にとっては便利。
  4. 特に衣料品が置いてあること。高齢者は女性の割合が多い。女性向きのちょっとしたカジュアルな衣料が手ごろな価格で揃えてあると来店頻度が上がる。
  5. 小口の総菜を充実させること。高齢者は独り暮らしが多い。65歳以上の女性の約5人に一人、男性の10人に一人は独り暮らしだ。独り暮らしの人が料理をすると食べきれず、割高となる。
  6. 顧客が店員に気軽に意見をいいやすい雰囲気をつくること。高齢者に人気の店は、たいてい店員が来客とよく会話をしている。

拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」でも高齢者にうけている小型スーパーの話に触れている。そこでは、肉はたったの4種類しか置かないが、漬物は50種類以上置いてある。これが欲しい、とリクエストされたものは、一品でも取り寄せてくれる。顧客が気軽に店員と会話ができるように歓談コーナーを設けて、お茶が自由に飲めるようにしてある。

こうした工夫は、すべて来店した顧客の生の声を反映したものである。

高齢者の疑似体験はやってもよい。だが、もっと大切なのは、目の前にいる顧客と対話することだ。何を欲しがっているのかの生の声を直接聞き届けることだ。

 

売れる商品は顧客につくってもらえ