スマートシニア・ビジネスレビュー 2006年1月16日 Vol. 79
1月3日から9日まで渡米し、多くのミーティングに参加して来ました。
ミーティング参加者の多くは、ベビーブーマー。
アメリカのベビーブーマーは、日本より年齢層が広く、
1946年から64年までに生まれた人を指します。
このうち、46年から55年生まれが
リーディング・エッジ・ブーマーと呼ばれ、
日本の団塊世代にあたります。
ミーティングに参加して改めて感心したのは、
参加者が皆自分の「語りのスタイル」を持っていて、
実に個性的なことです。
しかも男性だけでなく、女性もなのです。
たとえ前の人が極めて印象的な発言をしても、
あるいは暗い発言でしゃべりにくくなっても、
自分の番になるとあくまで自分のスタイルで語り、
相手に耳を傾けさせてしまう。
その場の雰囲気を支配する力を持っているのです。
こうした個性的なスタイルが、
いったいどこから来るのか改めて考えさせられました。
それは、アメリカ人と日本人との違いではなく、
その人が、自分が何者であるかの座標軸を、
会社などの「組織」に置いているのか、
「自分自身」に置いているのか、の違いだと思いました。
自分自身に座標軸を置くというと、
自己満足のナルシシズムのように聞こえますが、
実はその逆です。
それは、イチローや中田英寿といった
海外で活躍する日本人を見ればわかります。
彼らに共通なのは、まず自分という存在があり、
実は周りの評価よりも、あくまで自分自身が
心底納得しているかを大切にする姿勢を
持っていることです。
それが彼らの実力をアップし、
結果として周囲から一目置かれているのです。
私が参加したミーティングに
AARPのディレクターが二人参加していました。
一人は、31年間連邦政府の役人を務めた後、
5年前にAARPにやってきた女性。
もう一人はエイジング分野の第一人者で
1年前にAARPにスカウトされた男性です。
この二人が発言するシーンが実に対照的でした。
女性が発言するときには、必ず
「私のいる世界最大の組織のAARPでは、・・・」
「AARPでやっている研究によると・・・」といった
自分の所属組織の名称が枕詞に出てくるのです。
日本的に言うと「ウチの会社では・・・」
という言い方に似ているでしょう。
これに対して、男性の語りのスタイルは、
「自分がいかに考えているか」があくまで中心です。
もともと哲学専攻だったこの友人は、
人が生きることの意味を問い続けた結果、
エイジング研究がライフワークとなった人です。
彼が語る言葉にはいつも迫力があり、
そこにいる人の気持ちを惹きつける力があります。
日本ではAARPを知らない人もまだ多いようですが、
アメリカでAARPを知らない人はほとんどいません。
にもかかわらず、その女性が発言する際に
AARPという言葉を使う理由は、結局、
「自分は世界最大のAARPのディレクターであること」
が、彼女の拠り所だからです。
サラリーマン、退職すれば、ただの人。
これは、定年退職者だけに当てはまることではなく、
組織を離れた経験のある人なら、
誰もが一度は感じる通過儀礼です。
しかし、この通過儀礼があるからこそ、
人は、「組織」に委ねていた自分の座標軸を、
「自分自身」に取り戻すことが
できるのではないでしょうか。
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