スマートシニア・ビジネスレビュー 2011年7月25日 Vol.157

china-jiko中国の高速鉄道は危ないと言う意見は、

今回の事故が起こる以前からずっと指摘されていた。

 

日本の新幹線、欧州の高速鉄道のいいとこ取りをして、

突貫で作ったにも関わらず、「中国独自の技術」として

特許申請までしたことに対する批判が

日本の鉄道関係者から強かった。

 

だから、今回の事故発生を

「それ見たことか」と思っている人が多いようだ。

 

しかし、私が気になるのは、

「新幹線では考えられない」という

日本の鉄道関係者のコメントだ。

 

日本の新幹線は、中国に比べて遥かに安全に設計され、

運用上も多くのフェイル・セーフ機能が施され、

中国で起きたような事故は「あり得ない」というのだ。

 

この「新幹線では考えられない」

「日本の技術は優秀なのでこんな事故はあり得ない」

と同じ趣旨のセリフを、

私たちはこれまで何度も聞いてこなかっただろうか?

 そう、福島第一原発の事故が起きる前まで、

日本の原発関係者が言い続けてきたセリフだ。

 

確かに、日本の新幹線は大きな事故が少なく、

これまでのところ安全性が高いと言えよう。

だが、これまでまったく事故がなかったわけでない。

 

昭和39年の開業以来、47年間数多くの事故はあった。

しかし、事故が起きた都度、原因を徹底的に分析し、

改善し続けてきたのである。

 

技術と言うのは、トライアル&エラーを通じて

進歩するものだ。だから技術の完成度を上げるには、

事故経験が不可欠なのである。

 

こうした事故経験を含む

47年間の運転経験があることが

中国の高速鉄道との最大の差なのだ。

だから、開業間もない中国に比べれば

相対的には安全性は高いのである。

 

しかし、だからといって、日本の新幹線が

未来永劫、安全性が高いという保証はない。

あらゆるものはエイジングするからだ。

 

エイジングとは時間の変化に伴う性質の変化である。

鉄道も原子力プラントも必ずエイジング、つまり老朽化する。

福島第一原発は、40年前に稼働した

日本最古のプラントだった。

 

津波による自家発電機能の喪失が

今回の原発事故の引き金と言われるが、

老朽化したプラントは運転のバランスが崩れると

機能不全に陥りやすい。

この点が今回の原発が制御不能になってしまった

原因の一つと思われる。

 

だが、そのこと以上に気になるのは、

スリーマイル島やチェルノブイリの原発事故が起きても

「日本の技術は安全だから、そんな事故はあり得ない」

といい続けてきた日本で、

「あり得ない事故」が実際に起こり、

今も多くの人が苦しんでいると言う事実を、

もう忘れたかのようなコメントが

聞こえてくることだ。

 

中国政府が、国威高揚のために

安全性を度外視したことが原因ならば、

そうした姿勢は絶対に改めなければならない。

 

一方で、中国での事故を「技術力のない国の失態」と見下すのではなく、

日本でも近未来に起こり得る他山の石と見て、

「我々にも起こり得る」と

謙虚に脇を締める姿勢こそが大切なのではないか。

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この記事に対して、次の投稿をいただいております。

宮地 久子 より:

07/25/2011 1:53 PM (編集)

個人的な見解としては、新幹線などの鉄道技術と運用システムの問題と、原発の安全維持・管理の問題――いわゆる「安全神話」の問題とは、分けて考えた方が良いのではないかと考えている。

まず、前半は、「日本の新幹線は、トライ&エラーを重ねた半世紀近い運用実績があるゆえに、中国高速鉄道の稚拙さを見下すようなことはするべきではない」との主旨と受け止めたが、日本の新幹線が、「運行開始後日が浅い頃」に、ここまで悲惨な事故を起こしたことはないはずである。今回の鉄道事故に限ら ず、中国が抱える問題とは、技術面(ハード)よりもむしろ精神面(ソフト)での杜撰さであろうと思われる。
それこそ、「世界の中心たる中華のやることに誤謬はない」という、安全神話があるのではないだろうか。

第二に、原発事故の問題であるが、「千年に一度」の地震と津波が、原子力発電所にどのよう被害をもたらすかは、あえて言わせてもらえれば、「想定外」であっただろう。しかし、それでもなお、原発の安全を脅かすのは天災ばかりではなく、テロや戦争といった人災までも含めて、十分過ぎるほど十分にリス クを想定して、危機管理にあたらなければならないことは言うまでもない。
ただ、原発の場合は、一度の被害が甚大であるがゆえに、鉄道やその他の事故のように、何度も「トライ&エラー」を重ねるわけにはゆかず、「机上(コンピューター上)」でシュミレーションを行なうしかない。
今回の事故の教訓が、将来の技術・管理の進歩に十分に活かされ、万が一の事故の時の対応と、復旧作業、放射線被害への対処などの充実が図られることを願いたい。

もう一つ、「事故など起こり得ない」という発想は、神話ではなく「迷信」「妄想」の類である。その源流は、第一次石油ショック後のエネルギー政策を進めるため、いたずらに「原発」を恐れる人々に、原発推進を認めさせるための方便にあったと思われる。それは、時の政府や官僚、電力会社にばかり罪がある のではなく、「原発」を過剰に国民に恐れさせた、反原発、反核エネルギー思想の持ち主たちであり、その思想を蔓延させることに加担したマスコミにも責任があったはずだ。

その当時からの「反原発」思想の持ち主の一人が、菅直人であった。彼は、自らの思想信条を正当化させるためにも、なんとしても、原発を無くしてしまいたいのだろう。
今回の福島原発の事故の被害をより甚大にし、混迷させているのは、菅直人という愚昧なリーダーの判断ミス、初動ミス、指示命令の稚拙さに原因があるのであって、これはもう、彼一人が引き起こした、人類史上最悪の「人災」の一つとして記録されるべきであろうと考えている。