毎日新聞 2013年9月7日 連載 村田裕之のスマート・エイジング 第6回
前回、退職後も何らかの仕事をして年金以外の収入を得る生活をお勧めしました。しかし、たとえ収入は得られなくても、ひとの役に立つことで収入以上のものを得ることができます。
東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターにある脳の健康教室「脳いきいき学部」では、多くのボランティアがサポーターで活躍しています。あるサポーターが、「年配の参加者から、『この年齢になって、こんな勉強ができるなんて夢にも思わなかった。あなたのおかげよ、ありがとう』と言われ涙がこぼれた、と話していました。
40歳を過ぎると、感謝されたり褒められたりする機会が減ります。職場なら中間管理職以上の人が多く、部下を褒めることはあっても、自分が褒められることはあまりありません。家庭では親が同居していない限り最年長者であり、褒めてくれる人はいません。しかし、本来、人はいくつになっても褒められたいものです。
米国の心理学者、コーエンは「3000人を超える退職者に『人生の意味を感じさせてくれるものは何ですか?』と質問をしたところ、ほとんどの人が『他人の役に立つこと』と答えた、と言っています。
他人の役に立ちたいという気持ちは多くの退職者が持っており、膨大な社会的資源なのです。コーエンによれば、ボランティアで社会に「恩返し」をした人たちは、退職後の生活に最も満足している人たちと重なります。逆に退職後の生活で最も不満を抱えるのは、「現役時代に卓越したキャリアを築いていたのに、退職後にそれに匹敵する充実感を得られない人」だそうです。
皆さんもどんな小さなことでもよいので、何か他人の役に立つことに取り組んでみてください。