先見経済11月10日号 連載 親と自分の老い支度 第10回
前号に引き続き、最低限の見学で、よい介護施設を見分けるポイントをお伝えします。各項目の番号は前号からの通し番号としています。
⑦食堂は各フロアに設けられているか?
食堂は一か所に集中する「集中ダイニング」ではなく、各フロアに設ける「分散ダイニング」が望ましいです。その理由は、食事は一日三回毎日必要なため、入居者の要介護度が重くなった場合、集中ダイニングだと入居者の移動とスタッフの移動介助の負担が大きくなるからです。
集中ダイニングのホームでは、食事の時間前になるとエレベータ前に、車イスに乗った入居者が集中し、列をなしている光景がよく見られます。これは入居者にとって快適ではありません。
⑧エレベータの設置台数と大きさは適切か?
エレベータは五〇人から七〇人規模のホームでは一基、ストレッチャー(搬送用の脚と脚車のついたベッド)の入る奥行きのあるものが必要です。その理由は、事故が起きたときや要介護度が重く、座位が取れない入居者の移動のためにストレッチャーを使って、エレベータで移動するためです。
七〇人から一二〇人規模のホームでは、さらにもう一基通常型のエレベータが必要です。介護施設でストレッチャーが入らないような小さなエレベータを使っているところは、入居者の要介護度が重くなった場合の対応が大変になりますので要注意です。
床はカーペット、コルク、あるいはクッション性が高いフローリングか、塩ビシート張りが望ましいです。その理由は、入居者が転倒したときの衝撃を和らげてくれるからです。こうした床張りは、断熱性もあり、光熱費を抑え、騒音対策にもなります。特にカーペットは、ちりやほこりが床から舞い上がるのを防いでくれます。
⑩スタッフの通算経験年数はどのくらいか?
介護施設でのスタッフの通算経験年数には、長短のバランスが必要です。通算経験年数の短い人は経験が少なく、サービス品質面で劣る面もありますが、施設の理念や方針を柔軟に受け入れやすいと言えます。一方、通算経験年数の長い人は、一般に癖が強かったり妙なこだわりを持っていたりすることが多いため、こうしたスタッフばかりだと運営しにくく、人件費アップの要因にもなります。
私の知る限り、単に業界に長くいるだけの年配スタッフが多いホームより、やる気のある若手をしっかりリードして育てている中堅スタッフと若手が多いホームの方が活気があり、雰囲気もいいようです。
⑪スタッフの離職率はどのくらいか?
他の業界に比べ、離職率が高い業界ですが、あまり高いところはよくありません。離職率が高いと担当スタッフがすぐ代わるので、サービスの質も安定せず、入居者にとってストレスになります。離職率が三〇パーセントを超えている場合は、要注意です。ちなみに、こうしたスタッフの状況は重要事項説明書を見ると確認できます。
入居者の平均要介護度は、3前後が適当です。重すぎると、スタッフの負担が増え、サービスが手薄になりがちです。また、要介護度の分布は、軽度から重度までバランスよく分散しているのが理想的です。
バランスが偏ると、時間の経過に伴い、必要介護量(介護スタッフ数)が大きく変化し、介護サービスの質が低下します。バランスが取れていると、重度の人はベテランスタッフが対応し、軽度の人は新人スタッフが対応するということが可能になり、効率と質の両面でよくなります。これも重要事項説明書を見ると確認できます。
⑬苦情処理体制はあるか?
入居者や家族から苦情が出た場合、組織的に対応する体制が整備されているかどうかが、施設選択の重要な評価ポイントになります。施設内に投書箱は設置されているか、苦情処理の委員会などが設置されているか、苦情受付から対応までの記録を取っているか、などを確認してください。
⑭入居者の家族への対応はどうか?
入居者への対応はもちろん、家族への対応も重要な評価ポイントになります。入居者懇談会が定期的に開催されているか、スタッフが家族との信頼関係構築に努めているか、家族に対して入居者の記録を定期的にかつ随時報告しているか、施設の行事に家族を招いているか、などです。対応の良し悪しを評価するのに一番わかりやすいのは、スタッフが家族の顔と名前をちゃんと覚えているかです。
⑮掃除はきちんと行なわれているか?
居室内や共用部分、食堂、トイレ等は常に清掃され、清潔が保たれているかを見学のときに必ず確認してください。ゴミが落ちていたり、きちんと清掃されていなかったりする場合は、スタッフが不足気味かマネジメントに問題のあることが多いです。「介護施設に行ったらトイレを見よ」です。
⑯スタッフの服装、身だしなみ、言葉遣いは適切か?
スタッフの服装、言葉遣い、挨拶等はサービスの基本であり、これらを観察すれば、大体のレベルと雰囲気がわかります。ただし、営業担当のスタッフには、挨拶が元気なだけの人もいるので、要注意です。電話の応対は丁寧か、こちらの話をよく聴いてくれるか、説明をきちんと丁寧にしてくれるか、約束をきちんと守るか、などの点を意識して確認してください。
マスメディアに頻繁に広告を出しているところは要注意
テレビや新聞などのマスメディアで頻繁に広告を打っているところは、避けた方が無難でしょう。というのは、こういうホームは、基本的に入居率が低いところだからです。人気があり、評判のよいホームは、マスメディアに広告を出すことは、まずありません。人気のあるところは、概して営業力もあるので、マスメディアに頼りません。
現場のリーダーが優れているところを選ぶ
また、取材以外で、やたらと経営トップがメディアに露出するところも要注意です。こういうところの経営トップは、社外向けのアピールをメインの職務にしているようで、肝心の老人ホームの経営がおざなりになって、スタッフのマネジメントがうまくいっていないことがよくあります。
さらに、伝統的大企業の子会社が運営している老人ホームでは、経営トップが必ずしもそのホームの質を「代表」しているとは言えません。というのは、こうしたホームの経営トップは大抵親会社から出向してきた人であり、数年で親会社に戻るため、老人ホームの経営に本気で取り組む人はほとんどいないからです。
九月号で述べたとおり、高齢者施設の選択において重要なのは、経営トップよりも、入居を検討する個別施設の施設長や現場の介護リーダーの能力や人柄です。むしろ、現場たたき上げのプロパー社員の方が、責任感も強く、入居者の立場では、こういう現場スタッフの方が入居後に頼りになるのです。
*先見経済を発行する清話会のご好意により記事全文を掲載しています。
参考文献:親が70歳を過ぎたら読む本