スマートシニア・ビジネスレビュー 2009年10月7日 Vol.134
10月1日、2日とシンガポールで開催された「Asian Gerontorgy Experience Symposium」にスピーカーとして参加した。このシンポジウムにはアジアの15カ国から研究者、行政担当者、NPO、民間企業などの代表が集まった。
今回このシンポジウムに参加して気づいたことが二つある。
一つは、いよいよアジア各国も自国の高齢化の進展に
目を向けざるを得なくなってきたこと。
もう一つは、高齢社会対策における
「発展途上国型モデル(Developing Model)」という考え方が
台頭してきたことである。
今回は、これについてお話ししたい。
「発展途上国型モデル」とは、経済発展途上国における
高齢社会対策モデルのことをいう。
経済先進国では、ある程度の経済成長の後に
社会の高齢化が進んだ。これに対し、経済発展途上国では、
経済成長と高齢化とが同時に進んでいることが多い。
この場合、先進国型の高齢社会政策が必ずしも
適用できないため、発展途上国に適した高齢社会政策が
必要だ、というのが「発展途上国型モデル」の趣旨である。
この考え方を述べていたのは、韓国の研究者だった。
彼は「韓国は朝鮮戦争後、世界で最も貧しい国になり、
そこから経済復興を進めた結果、経済成長が進展しながら
社会の高齢化の進展も経験した」と述べ、
シンポジウム参加の多くの国々は、
この「発展途上国型モデル」こそが参考になる、と述べた。
この話を聞いて、私も改めてそのとおりだと思った。
というのは、中国の高齢化動向を知ってから、
今後は中国のような経済成長と高齢化が同時進展する国が
増えていくことを予感していたからだ。
(知られざる中国 高齢化の実態Vol.49 2004年4月27日)
ただし、私の中では韓国は日本に近い「先進国型モデル」
だと思っていたので、韓国の研究者からの発言は、
正直意外な感じがした。
なんとなく、アジア地域での今後の高齢社会対策において
イニシアティブを取りたがっている韓国の意図を感じた。
「先進国型モデル」における高齢社会政策の基本は、
経済成長予測と人口動態予測である。
日本の年金制度もこれらの予測に基づいて設計された。
ところが、予測された50年以上前の段階では、
政府役人は右肩上がりの経済成長と人口増加を予測し、
今日のような経済のマイナス成長や人口減少は
まったく予測できなかった。
これらの予測が外れたことが、今日の社会保障制度が
抱える様々な問題の諸悪の根源となっている。
「発展途上国型モデル」は、この「先進国型モデル」の
アンチテーゼともいえる。
こういうとかなり進んでいるように思えるが、
発展途上国では政府の施策が年金や公的介護保険制度
などの社会保障にまで行き届かなかったというのが実態だ。
未だに年金制度もない国が中国をはじめ多く存在する。
「発展途上国型モデル」のメリットは、
本当に必要なタイミングになってから制度化することである。
また、市場環境の変化に応じて、
その時代にベストな制度に修正を施す。
だから、経済成長変化や人口動態変化による
制度の適用性の誤差が比較的小さく済む。
さらに、日本を含む多くの「先進国型モデル」を
十分研究したうえで導入するため、
先進国の失敗事例から学び、成功事例を取り入れるという
「いいとこ取り」ができる。
先の韓国の研究者と個別にいろいろ話をしたが、
「韓国の公的介護保険制度の導入において、
日本の経験が大変役に立った」と何度も強調していた。
一方、「発展途上国型モデル」のデメリットは、
市場環境に応じて頻繁に修正を施すために、
制度を利用する現場において混乱が起きやすいことである。
実は日本の公的介護保険制度は、すでに
「発展途上国型モデル」と同じ考えでつくられているといえる。
制度導入が2000年と比較的新しく、
毎年のように制度修正を行っている。
この制度修正により現場から不満の声がよく聞かれるが、
日本のような経済成熟・超高齢社会においては、
政策運営という面では賢明な方法とも言えるのだ。
冒頭述べたように、いよいよアジア各国も
高齢化対応に取り組まざるを得なくなった。
この分野での人的交流が今後様々な形で
増えていくことを改めて予感した。
参考情報
Vol.49 2004年4月27日
エピローグ シニアビジネスで世界のリーダーになれる日本