スマートシニア・ビジネスレビュー 2004年1月6日 Vol. 42

randy-johnson年末年始のテレビ番組で印象に残ったのが、
メジャーリーガー ランディ・ジョンソンと
日本のプロ野球選手 川相昌弘との対談である。

ランディ・ジョンソンは、言わずと知れたメジャーリーグ屈指の左腕投手。40歳でなお、160キロの速球を投げる。一昨年のワールド・チャンピオン、ダイヤモンド・バックスのエースだ。

kawai-chunichi一方の川相は、犠打世界記録をもつ内野手。39歳の今秋、一旦引退を表明したものの撤回し、21年間在籍した巨人を去り、テスト入団で中日へ入団した。

この二人の対談という「意外性」が、番組を見始めた不純なきっかけだったが、終わった後に、なぜか爽やかな納得感の残る番組だった。

この納得感は、どこから来たのだろうか。

二人に共通するのは、
プロ野球選手の標準に照らせば
いわゆる「引退適齢期」であることだ。

川相が引退表明をしたのは、
原前監督に、引退したら一軍守備コーチを任せる、と
言われたからだという。
一週間悩んだ末、引退を決意した。

本当は「その時はそう言わざるを得なかった」という。
これは、大企業で子会社への管理職ポストを約束され、
リストラ圧力をかけられるのと同じだ。

だが、引退表明をした直後、
自分に引導を渡した監督が騒動の末に辞任。
21年間乗っていた「巨人ブランド」を捨てた。

犠打の名手という地味さがゆえ、
川相という選手ほど巨人というユニフォームが
似合わない人はないと思っていた。

それでも21年間巨人のユニフォームを着続けた。
そんな彼が、なぜ、そのユニフォームを脱いだのか。

ジョンソンが川相に言った。

「40歳にもなると、周りの何人かの人が
"そろそろ引退する潮時ではないか"と自分にいう。
だが、引退時期というものは、周りが決めるのではない。
自分が決めるものだ」

川相はプロ野球選手生活21年目にして気がついたのだ。
プロ野球選手としての彼の存在価値は、
巨人という大企業ブランドの力に依ってはいけないことを。

今回の川相の一連の行動を
「リストラをはね返した中高年の星」
と称賛するのは見方が浅すぎるだろう。

彼が今回成し遂げた最大の事は、
巨人という球団から
自分の引退時期の決定権を奪い取ったことだ。

そして、このことは、
これからの人生を組織に依存せず、
自分の道は、自分の力で切り開き、
選択した道の責任もすべて自分で取るという
決意表明でもある。

この決意表明にこそ、
彼の行動が称賛されるべき理由がある。

「擬似プロ選手」から
真の「プロフェッショナル・プレーヤー」への
第一歩を歩み始めた川相。

「リタイア」をリタイアして「男」を上げた男の
これからの活躍を祈りたい。