スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年2月14日 Vol. 101

beatles以前、ある講演の場で「米国では2007年問題はあるのか」
という質問を受けた。

結論から言えば「ない」が答えである。

しかし、状況はもっと複雑なので、正確を期すために、
もう少し丁寧な説明をしたい。

まず、質問内容にある「2007年問題」から整理する必要がある。
2007年に他の年齢層に比べて数の多い団塊世代の最年長者が
60歳になり、一斉に定年退職することに伴い発生すると思われる
さまざまな問題をひっくるめて「2007年問題」と呼ばれてきた。

しかし、「2007年問題」と称して扱われる現象は、
実は2007年に突然起こるものではなく、2007年以前から起きていて、
2007年以降も起き続ける「連続的な構造変化」である。
このことは、拙著「団塊・シニアビジネス 7つの発想転換」はじめ
多くのメディアや講演の場でこれまで話してきたとおりだ。

次に、米国にはごく一部の職種を除いて「定年退職」という制度がない。
昔はあったのだが、AARPなどの働きかけのおかげで、
「雇用における年齢差別禁止法」が制定され、
雇用年齢上限が撤廃されたからだ。

これらの理由から、米国では団塊世代の「一斉定年退職」は存在しない。
したがって、団塊世代の「一斉定年退職」をきっかけとして起きる
さまざまな問題としての「2007年問題」は米国には存在しないのである。

ところが、上記に挙げた「連続的な構造変化」は実は米国でも存在する。
これをきちんと理解するために、
米国と日本における「団塊世代」の共通点と相違点を知る必要がある。

us-boomer日本の団塊世代の定義は、「1947年から49年生まれの人たち」で、その数はおよそ680万人である。
一方、米国の団塊世代にあたるBaby Boomers
(単にBoomersとも呼ばれる)の定義は、
「1946年から64年生まれの人たち」で、日本よりも年齢の幅が広い。

この年齢層をさらに二つに分け、
46年から55年生まれをLeading-edge Boomers、
56年から64年生まれをLate Boomersと呼ぶこともある。

前者は3720万人、後者は3769万人、合計7489万人。
米国全人口3億人のおよそ4分の1を占めるのが
米国のBaby Boomersである。

前述のとおり、米国では定年退職制度は法律で禁止されている。
しかし、退職してリタイアする年齢は60歳から70歳の間が多い。
このため、人数の多いBoomersがリタイアすることで、
さまざまな影響が予想されると注目されている点は日本と同じだ。

ところが、この「リタイア」の意味が変わってきている。
従来、60歳を過ぎて退職したら、イコール「リタイア」だったのが、
60歳を過ぎて退職しても「リタイア」しない人が増えてきたからだ。

この新しい潮流に対してAARPはここ数年
Reinventing Retirement (リタイアメントの再創造)という表現を使っている。
だが、リタイア(あるいはリタイアメント)に変わる新しい言葉は、
まだ見つかっていない。

しかし、「リタイアメントの再創造」という課題の本質は、
新しい言葉を作ることではない。

かつての年長者よりも、平均的に長い時間を後半生として与えられる
現代の年配者が、個人としても社会にとっても有意義に過ごせる生き方を
「自分」で創り出さなければいけないことが本質だと思う。

昨年秋から大ヒットしている映画「フラガール」のなかで、
豊川悦司演ずる兄が、蒼井優演じる妹の喜美子に対して、
次の言葉を語る場面がある。

「昔、石炭は黒いダイヤと呼ばれ、祖父ちゃんも父ちゃんも
物心ついたときから炭鉱の山の中に入っていた。
俺も山の中に入るのが当たり前だと思っていた」

モノが少なく、貧しい時代は、選択肢がなかった。
だから、あれこれ考えずに、そこに提示されている世界だけを見て、
世の中はこうであると思い込みがちだった。

高度成長を支えてきた団塊世代の多くのサラリーマンにとって、
職場中心の生活を送っていたときは、
職場周辺を見ていれば良かった。

しかし、その職場を退職して個人中心の生活になった瞬間から、
それまでになかった多くの選択肢があることを実感すると思う。

選択肢が多くなるということは、
自分で選択できる「自由」が増えるということである。
同時に、自分で選択することの「責任」も伴うということだ。

私が知る限り、米国のBoomersには、この自由を享受するために、
責任を負うことをいとわない人が多い。
一方、日本の団塊世代には、責任を負うことを避けて、
自由も放棄する人が多いようだ。

皆さんはどちらを選択されますか?

 

●参考情報

消費を促す5つの変化 - 若者にはない変化が需要の発生源