長寿の国・沖縄の変化

スマートシニア・ビジネスレビュー 2007年3月12日 Vol. 102

評価が崩れつつある長寿県・沖縄

先週、ジェロントロジー国際総合会議での発表のため沖縄に数日滞在した。

会議のなかで特に琉球大学平良一彦教授の話が面白かった。平良教授によると、沖縄は長い間、全国屈指の長寿県として評価されていたが、近年その評価が崩れつつあるという。

特に中高年の肥満率が高くなっているという。男性は40代から60代の全国平均が29%なのに対して、沖縄は40代が43%、50代が62%、60代が50%。また女性は全国平均が40代で20%、50台で25%、60代で31%なのに対して、沖縄はそれぞれ37%、48%、50%とかなり高い

長寿の国として世界的に知られている沖縄で、なぜ、こうした変化が起きたのだろうか。

沖縄県で肥満率が高い5つの理由

肥満率が高い原因として、次の5つの理由が指摘されていた。

①歩行不足
②食生活の変化
③飲酒習慣
④日本一高い失業率
⑤日本一低い県民一人当たりの年間所得

①については、沖縄には電車などの公共交通機関がなく、クルマ社会であることがその原因と指摘されていた。今回、那覇市内をクルマで走ってみて、確かに市内の交通渋滞が激しいことを私自身実感したので、これには同感した。

②については、高カロリー、高脂肪のファーストフードが食生活に増えてきたことがその原因と指摘されていた。これは何も沖縄だけでなく、もともと魚や野菜主体の低カロリー、低脂肪、高タンパク質の食生活だった日本に戦後アメリカの食文化が持ち込まれたことと一致する。

肥満大国アメリカでは、近年、寿司や刺身、豆腐などの健康的な日本食がますます人気になっている。アメリカでのマグロの消費量が急増しているおかげで、日本でのマグロの値段が高騰する“とばっちり”も受けている。

カロリー過多のアメリカ人が健康的な日本食を求めるようになった反面、アメリカの食文化を輸入したことでバランスのよい食文化を誇っていた沖縄に肥満者が増えているのは何とも皮肉なことだ。沖縄の場合、米軍の存在が大きいことから、他の県以上にアメリカ文化の影響が強いように感じられ、何とも複雑な思いがした。

飲酒の中身が泡盛から別なものにシフトしてきた?

一方、理由③の「飲酒習慣が原因」との理由は、時間の制限で詳しい説明がなかったのでよくわからなかった。

沖縄の酒といえば、アルコール度の高い泡盛が一般的だ。那覇市内にはたくさんの泡盛専門店があり、一般の酒屋でも一番種類が多いのはワインではなく、泡盛である。

泡盛は焼酎が主に白麹菌を用いるのとは対照的に黒麹菌を用い100%米こうじだけで発酵させた蒸留酒だ。焼酎には単式蒸留で造られる乙類と連続式蒸留で造られる甲類がある。泡盛は乙類に属し、チューハイ等に使われる焼酎甲類とは成分、香り共に異なる。

泡盛は最近の研究で「血栓溶解酵素(血のかたまりを溶かす酵素)」が豊富に(ワインの約1.5倍)含まれており、動脈硬化や心筋梗塞の予防に発揮するといわれている。沖縄に長寿者が多い理由のひとつと思われる。

おそらく、理由の③は、理由④の「日本一高い失業率」や理由⑤の「日本一低い県民一人当たりの年間所得」と関連し、泡盛以外の飲酒量が多くなっていることが指摘されているのかもしれない。

色々な文化がクロスオーバーする沖縄は観光地として非常にユニーク

沖縄は観光以外にこれといった産業がないと言われる。それが「日本一高い失業率」や「日本一低い県民一人当たりの年間所得」の理由とされる。しかし、たとえば、同じように観光産業が中心でも、スイスのように世界でも高水準の所得を維持している国も存在する。

琉球固有の文化、東南アジアの文化、アメリカの文化、そして日本の文化がクロスオーバーする沖縄は、観光地として非常にユニークで魅力的だと思う。

観光資源を魅力にして多くの国際機関や国際会議を招聘するスイスに習い、長寿の国・沖縄らしく、今回のジェロントロジー国際会議のようなエイジングに関する国際会議やWHOのような国際機関を積極的に招聘したら沖縄の所得水準も向上するに違いない。

世界的に進展する高齢化の波は、沖縄の未来に大きな追い風となっている。そんなことを感じた沖縄の滞在だった。