スマートシニア・ビジネスレビュー 2012年12月6日 Vol.185
拙著「シニアシフトの衝撃」の第1章に「もはやファミリー向けではなくなったファミリーレストラン」と書きました。この延長上のような記事が本日の日経新聞に掲載されています。
それは、高齢者向け住宅を運営する学研ココファンと“ファミリーレストラン”デニーズを運営するセブン&アイ・フードシステムズが提携して、建て替えを予定するデニーズのうち年間数棟を高齢者住宅との一体型に替えるというものです。
学研ココファンが取り組んでいるのは「サービス付き高齢者向け住宅」。これはかつての高齢者向け賃貸住宅で、要するに高齢者でも入居を断られない賃貸アパートです。
この住宅には最低限入居者の安否確認などのサービスを付けるのが条件です。これにより政府から補助金が受けられるので昨年の制度スタートからハウスメーカーなどが注力しています。
これまで安否確認以外のサービスとして、クリニックやデイサービスセンターの併設などがありました。しかし、本日の記事は、こうしたサービスの中身の新たな方向性を示したものと言えましょう。
これまでの「サービス付き高齢者向け住宅」にも、もちろん食堂はついていました。しかし、こうした食堂では、利用者は入居者のみでした。
ところが、入居者全員が三食必ず利用するわけではない。しかも、朝・昼・夜の限られた時間帯以外は、稼働しません。つまり、スペースを使う割に運営効率が低いのが現状です。
これに対して、今日の記事のやり方は、食堂をファミレスにして、入居者以外の外部の人も利用できるようにすることで、「食堂」と「ファミレス」の集客力・稼働率の向上を同時に狙うものです。
また、こうすることで、新たな形態のサービスが付いた「サービス付き高齢者向け住宅」としてアピールできるメリットもあるのでしょう。
一方、課題として考えられるのは、「高齢者住宅とくっついているデニーズ」に高齢者以外の客がやってくるか、ということでしょう。
たとえば、高齢者をターゲットとすれば、メニューのなかに「やわらか食」というような、噛みやすい、飲み込みやすい食事メニューなども求められるでしょう。
しかし、こうしたメニューが通常の食事メニューとともに併記されていることを高齢者ではない一般の顧客がどのように感じるかです。
また、「サービス付き高齢者向け住宅」は価格競争が激しい。地方では3食付で月額79,800などという破格のものも現れています。
ローコスト建設、ローコスト・オペレーションがますます求められるとはいえ、レストラン部分のしつらえをあまり安っぽくすると、一般顧客にとっての魅力が乏しくなる可能性もあります。こうした課題は、これ以外にもいくつか考えられます。
しかし、重要なことは、こうした新業態の取り組みは、加速するシニアシフトの流れの中で、間違いなく日本中で増えていくことです。
時代の流れをどのように読み、柔軟に対応していけるか、経営体制のフットワークがこれまで以上に求められることでしょう。
「シニアシフトの衝撃 超高齢社会をビジネスチャンスに変える方法」
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