スマートシニア・ビジネスレビュー 2008年2月13日 Vol. 114

hikousen昨年の11月23日から今年の1月5日まで
東京上空で飛行船遊覧クルーズが実施された。
販売を担当したJTB西日本によれば、
発売開始直後に定員800名がほぼ完売したという。

興味深いのは約350件の申込のうち、200件弱が60歳以上からだという点。つまり、申込件数の面で67%が60歳以上だったのだ。また、80歳以上からの申込も20件あったという。

料金は90分の乗船で一人14万円前後と決して安くない。
しかし、「料金が高い」という声は
申込者の誰一人からも出なかったという。

いったい、この人気の秘密は何なのか。
私自身乗船してみて、その理由がよくわかった。

理由の一つは、日本初の試みという話題性だ。
今回の飛行船『ツェッペリンNT』は製作国のドイツ以外では
日本でしか飛んでいないという希少なもの。
これがメディアでも取り上げられ話題になったことが大きい。

だが、もっと大きな理由は、日常では決して見られない
「鳥瞰的な視野(バード・ビュー)」を体験できることだ。

地上600メートルからの視野は、
普段見慣れているはずの街の風景を別の姿に見せてくれる。
こうした体験は世界で初めて空を飛んだライト兄弟以来、
人間にとって一度は体験してみたいことの一つなのだ。

実際に乗船してみると「おや?」と気がつくことが多数あった。
たとえば、東京湾にかかっているレインボーブリッジは、
名前だけがレインボーなのだと思っていたら、
夜になると橋の下側から上側に向かって
7色の照明が美しく照らされていることを知った。

また、時々通る外環自動車道は、クルマで走るときには
遮蔽された無機質のチューブの中を走るようで味気ない。
ところが、夜の上空からみるとオレンジ色のナトリウム灯が
列をなして曲線を描いて東西に続いているのが意外に美しい。

さらに、多くのネオンサインに囲まれる都心のど真ん中に
突如ブラックホールのように現れる暗闇が、
実は皇居であることも知った。
皇居には自然の樹木が多く、
余分な照明がほとんどないからなのだ。

この飛行船体験で、私は、
立花隆の「宇宙からの帰還」に記されていた
宇宙から地球を見た多くの宇宙飛行士の話を思い出した。

ucyuukaranokikanほとんど光のない深い闇の宇宙空間に浮かぶ地球は、
宝石のように美しく輝いていて、
奇跡的な存在であることを実感するという。

こうした体験をした宇宙飛行士は、
その後に自身の人生観を大きく変え、
宇宙飛行士とは別の道を歩む人が多い、
という話だった。

今回の90分の飛行船クルーズが
その人の人生観まで変えるかはわからないが、
宇宙飛行士の体験に通じるものがある気がした。

それは、普段見慣れていて、
当たり前だと思い込んでいたものが
実はまったく別の姿を持っていることに気がつくことだ。

このような数々の「未知との遭遇」を
実際に自分自身で体験できることが
人生の残り時間を意識する年配者にとっての「価値」であり、
飛行船クルーズの最大の魅力だと思った。

その商品が高いか安いかを決めるのは顧客だ。
顧客は自分にとって価値があると判断すれば
惜しみなく料金を支払うのである。

次は3月20日から5月7日まで関西で実施とのこと。
乗船する人は、桜の季節の関西の
意外な姿に遭遇できることだろう。

 

●参考情報

リタイア・モラトリアム-すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか
(日本経済新聞出版社)