スマートシニア・ビジネスレビュー 2003109 Vol. 36

秋の旅行団塊世代を中心とした50代女性が、

これからの一年で一番楽しみにしていること。

それは「旅行」である。

これは先日の電通シニア大航海学会で講演された

サンケイリビング新聞社滑川さんの話。

拝見したデータによれば、

今後一年間に、50代女性の68%が

海外旅行や3泊以上の国内旅行を予定している。

 

50代以上が旅行需要のけん引役になっていることは

旅行業界では既に常識化している。

しかし、実際にほぼ7割の人が

今後一年間に旅行を予定していることを知り、

この世代の旅行に対する潜在需要の大きさを改めて感じた。

 

50代女性は、子育てが一段落するとともに

夫が退職時期を迎えることが多い。

これまで家の中に向けていたエネルギーを

今度は家の外に向けたいと思う気持ちも強く、

非日常体験としての旅行への需要は底堅い。

 

しかし、これだけの潜在需要にもかかわらず、

実際に旅行にいける人は、予定より少なくなるだろう。

 

その理由は「ペット」である。

 

ペットがいることが、

数日以上の旅行で家を空ける際の

足かせとなるからだ。

 

本年7月の内閣府の動物愛護に関する世論調査によると、

ペット保有者は全体の36.6%、

つまり、2.7人に一人の割合だ。

 

しかし、年齢層別に見ると、

50代が45.6%、つまり2.2人に一人の割合で最も多い。

以下、40代が41.9%、60代が34.5%と続く。

 

このように旅行に対する潜在需要が大きい50代は、

ペット保有率が最も大きい層でもある。

このため、実はペットの保有が、

この世代の旅行需要の阻害要因となっている。

 

逆にいえば、この阻害要因を取り除く

何らかのサービスを提供することで、

潜在需要のかなりの部分を実需要にできる。

 

身近に家族がいる場合、

家族に留守中のペットの世話を任せるのが一番よい。

しかし、それができない場合はどうするか。

 

一つめは、隣近所の人に留守中の自宅に入ってもらい、

ペットの面倒を見てもらう方法。

 

この方法のメリットは、相手が顔見知りであり、

家の中に入ってもらうことへの心理的抵抗感が

比較的小さいことである。

 

一方、デメリットは、預けたペットが死んでしまうなどの

事故があった時に気まずくなることだ。

引っ越さない限り、これからも隣近所に住むわけなので、

人間関係がぎくしゃくするのは好ましくない。

このため、隣近所の人には意外にペットを預けにくい。

 

二つ目は、ペットホテルに預ける方法。

この方法のメリットは、それなりの設備が整ったペットの専門家に、

世話を任せられることへの安心感である。

 

一方、デメリットは、ペットをそこまで連れていく手間がかかることと、

環境が変わることでペットに過大なストレスがかかることだ。

 

特に犬は知的レベルが高いため、

ペットホテルに預けるとショック状態になり、

えさを食べなくなることも多い。

 

三つ目は、ペットシッターに来てもらう方法。

この方法のメリットは、ペットの専門家が

面倒を見てくれるという安心感である。

 

最近は、愛玩動物飼養管理士等の資格を持った人も多く、

シッターの数も増えている。

 

一方、デメリットは、アカの他人を

留守中の自宅に入れることに対する

心理的抵抗感が大きいことだ。

 

一度でも依頼の実績があれば、心理的な「敷居」は低くなるだろう。

しかし、その最初の依頼までの「敷居」は高い。

しかも、一般に年長者ほど用心深くなるため、この傾向は強まる。

 

このように、既存の解決策はどれも一長一短があり、

決定版がないのが現状だ。

 

しかし、実は上に挙げた以外にまだいろいろな解決策が考えられる。

そして、そのヒントは意外に既存のいろいろな商品・サービスにある。

 

たとえば、アメリカに「オージー・ペット・モバイル」という

急成長中のサービスがある。

 

これはペット向けの自宅出張身だしなみサービスだが、

有用なヒントを与えてくれるものの一つだ。

(これについては「月刊ビジネスデータ7月号」の拙稿を参照)

 

大切なのは、この世代特有の潜在需要を

阻害している要因に目を向けること。

 

そして、その阻害要因を取り除く方法を

いろいろと独自に工夫してみることである。